神経細胞が産生されるメカニズムを解明するため、ショウジョウバエ視覚中枢をモデルとして、その形成に必須の因子の探索を行ってきた。ショウジョウバエ成体の視覚中枢は、ラミナ、メダラ、ロビュラ複合体の3種の神経節からなる。これら視神経節は、Outer Optic Anlage (OOA)とInner Optic Anlage (IOA)の2種の上皮性神経外胚葉からつくられる。ラミナとメダラの一部の細胞はOOAの神経上皮細胞から分化する。幼虫期において、メダラ神経細胞を産生する幹細胞は、神経上皮細胞の辺縁側から分化を開始し、中心方向に向かって分化が進行する。一方、ラミナ神経細胞の分化は、視神経軸索の投射に依存し、中心側から始まり外側へと向かう。RNA干渉(RNAi)スクリーニングにおいて視覚中枢形成に異常が観察されたJAK/STAT (Janus Kinase/Signal Transducer and Activator)シグナルについて、詳細な解析を行ってきた。 発現解析の結果から、JAK/STATシグナルは神経上皮細胞において発現し、活性化されること旨が予想された。JAKのショウジョウバエホモログをコードするhopscotchの機能欠失型変異体では、発生段階において神経上皮細胞が野生型と比較して少なく、結果としてメダラ神経細胞の減少、ラミナ神経細胞の欠失が見られた。モザイク解析および過剰発現実験の結果から、JAK/STATシグナルはメダラ神経細胞の早すぎる分化を抑制していることがわかった。以上の結果から、JAK/STATシグナルは神経上皮細胞の増殖及び分化を制御している可能性が強く示唆された。現在、メダラ神経細胞分化に関して、JAK/STATシグナルと協調的、あるいは対立的に機能する因子の探索を行っている。
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