既に複雑に作られた神経ネットワークを分析的・解析的に調べる従来の手法ではなく、1神経細胞を基本構成単位としてネットワークパターンを人為的に組み立てて調べるという構成的アプローチによって、ネットワークパターンの意味を知ることを目的に研究を行っている。本年度は、昨年度着手した技術開発を更に進め、それを用いた計測評価を中心に研究を行った。以下に記す。 (1)微小多電極チップと計測システムの開発 新たに作製した電極サイズ8μm、電極間ピッチ50μmの空間分解能の高い多電極チップと自在な刺激計測を組み込んだサンプリングレート100kHz(64ch同時)の高時間分解能システムを用いて、1神経細胞を細胞体、突起ベースで多点計測することに成功した。その結果、1神経細胞内を伝播する活動電位の算出、100kHz samplingの精度の高さを証明した。これらの結果に関しては、論文投稿中である。また、従来ノイズ軽減のために、電極に白金黒を塗布していたが、参照電極を工夫することにより、白金黒なしの電極によって神経細胞からの活動電位記録に成功した。この技術により、蛍光イメージングと電気活動を同時に行うことが可能になった。現在、1細胞パターニングからの厳密な計測によるデータ取得を行っている。 (2)GAD-67 GFP-knock in mouseを用いた培養 1細胞単位で突起の伸長方向を制御した神経回路の構築は達成したが、神経細胞の種類、Glutamergic、GABAergicの選別に課題があった。それを解決するために、GABA neuronにGFPを発現させたGAD-67 GFP-knock in mouseを群馬大学柳川先生より提供して頂き、繁殖させ、実験に用いた。その結果、GABA neuronとGlutamergic neuronを選別して培養することが確認できた。現在、パターニング培養して、計測を行っている。 (3)Aβ1-42の電気生理学的効果の検討 アルツハイマー病の原因の一つだと考えられている、アミロイドβの沈着に関して、パターニングの技術を用いて、1細胞レベルの電気生理学的効果を調べる実験を開始した。具体的には、パターニング技術によりautapseを形成させ、Aβ1-42 monomerの影響をパッチクランプ法により検出した。今後、上記細胞種の違いや、グリア細胞の効果等調べてゆく予定である。 これらの成果を国際会議、国内会議(計5件)で発表・ディスカッションを行い、日本生物物理学会においては若手奨励賞を受賞した。
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