研究課題
国際学術研究
本研究は、諸外国のエイズ教育・性教育の研究・教育のシステムや機関・施策等の実態を調査研究し、わが国のエイズ教育・性教育に資することを目的としている。1、米国では、エイズ教育・性教育は州によって異なり、エイズ教育必修が34州、性教育必修が17州であった。(SIECUS調査)また、保護者はエイズ教育・性教育に対して学習拒否の権利を有していた。エイズ教育のガイドラインとして米国防疫センター(CDC)が開発したパンフレットが多く用いられていた。CDCでは、エイズ教育のプログラム・アセスメント、評価点検を重視していた。カナダと同様に、高学年では健康教育が選択科目となるため、性的に活発な年齢期にエイズ教育・性教育ができないという問題が見られた。2、英国では、性教育が中等学校で必修とされ、エイズ教育は健康教育の中の性教育・薬物教育の中に位置付けられ、カリキュラムではPSE (Personal and Social Education)に位置付けられていた。米国と同様に、保護者はエイズ教育・性教育の学習を拒否する権利を有する。エイズ教育の障害としては、指導者の訓練不足があげられており、現場の高等学校では英国健康教育局(HEA)が開発した、教師であれば誰にもできる「耐教師性」のあるエイズ教育用教材が使用されていた。小学校では低学年のPSEの時間に、エイズに対する偏見差別を払拭し、HIV感染者の心情と共生の仕方を理解させることを目的として体験的学習と教師が優れた童話を読む授業がなされていた。3、スウェーデンでは、性教育が1学年〜9学年で必修である。性教育という特定の教科はなく、理科、歴史等様々な教科の中で行われている。教育省は1977年に開発された教師用の性教育の手引き「人間関係の指導」を1995年に改討した。それは、性についての事実や意見を載せ、若者の現実の生活実態に即した教材を提供することを主目的とし、教師の役割は知識の源となると共に、ガイド役となることが必要であることが強調され、従来の教師用マニュアルから参考資料へとその体裁を変更したものであった。エイズ教育・性教育の授業方法としては、教師による講義と共に、小グループでのグループ・ワークと討論を組み合わせたものが薦められていた。4、オーストラリアでは「健康教育」が8つの教科の中の一つに位置付けられ、幼稚園から10年生(15歳)のクラスで実施されることとなっていた。内容は「地域・環境と健康」「精神と健康」「身体と健康」「社会と健康」の4つの要素からなり、エイズ教育は、それぞれの要素に追加する形で、6年生か10年生において実施することとが推奨されており、健康教育-セクシュアリティ教育-性感染症に関する教育-エイズ教育という文脈で扱われていた。オーストラリアでのエイズ教育の実施率は年々増加し、全児童・生徒の半分以上がエイズ教育を受けていた。西オーストラリア州では、エイズ教育・性教育にコミュニケーション・スキル等ライフスキルを扱った授業が実施されていた。5、イタリアの15〜49歳のHIV感染率は、英国の3.5倍、スウェーデンの4倍であり、エイズは25〜34歳男子の死亡原因の第二位を占めている。性教育は必修ではない。学校長や両親・教師が文化的・宗教的理由により、性やエイズや薬物の教育を教育課程に導入することに反対する傾向が見られたため、すべての高校の校長に対してエイズ教育の二日間の訓練コースが教育保健省の後援のもと国立保健研究所によって実施され、その後、全イタリアの各校一名の高校教師に対し健康教育の訓練がなされており、エイズ予防の教材キットが各高校に配布されていた。6、タイやメキシコでも、エイズ教育・性教育の取り組みが開始されていた。エイズ教育・性教育の普及は、教育の基盤整備が深くかかわっていた。タイでは、エイズ教育の基本的な考え方や教材の中にWHOやUNESUCOが開発したものが多く取り入れられていた。
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