インド亜大陸における民族・宗教紛争の生成と回避のメカニズムの人類学的研究

1994 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 06041021
• 研究機関: 東京大学
• 研究代表者: 松井 健 東京大学, 東洋文化研究所, 教授 (50109063)
• 研究分担者: 関根 康正 学習院女子短期大学, 人文学科, 教授 (40108197) ; 三尾 稔 東京大学, 教養学部, 助手 (50242029) ; 永ノ尾 信悟 東京大学, 東洋文化研究所, 教授 (40140959)
• キーワード: インド亜大陸 / 民族紛争 / 宗教紛争 / 民族集団 / アイデンティティ / カースト / 復古主義 / ファンダメンタリズム

研究概要

パキスタンのバル-テスターン州において、代表者の松井は、ジクリーと呼ばれる非正統的な宗教集団が、とくに民族主義的・復古主義的色彩の濃いムスリムの諸集団と、どのような関係をもっているのかについて、調査を進めた。ジクリーについての基本的な文献と教養についても、情報をえた。インドのビハ-ル州とナミールナ-ドゥ州についても、中心的なブラ-フマンの集落と、より低いカーストの集落やムスリムの集落とが、どのような関係にあるのかが、永ノ尾と関根によって探究された。三尾は、インドのラージャスターン州のラージプ-ト族中心の地域において、トライバルで周縁的なビール族が、どのような社会的位置を占めているのかについて、調査を進めた。これらの諸調査によって、インド亜大陸における四つの地域において、(1)西の擬封建的なムスリム部族社会から、東のヒンドゥー・カースト社会にいたる、成層的社会のあり方を、統一的にとらえるための基礎的な資料が集められた。(2)平静とみえる各調査地において伏在している、宗教・民族・カーストなどの集団間の緊張と、日常生活のあり方について、かなりの観察・聞き込みをおこなうことができた。(3)攻撃性や欲求不満といった、暴力にかかわりをもつように思われる心理的要因について、各調査地で特異な状況が認められることが明らかになった。(4)平成7年度において調査する予定の、調査対象社会への外部からの政治・宗教組織の関与について、予備的な情報を集めることができた。以上の諸成果を、丁寧に対比・比較しつつ、討論を深めることによって、平成7年度以降の調査の目標を十分に達成可能なものにすることができるという見通しをもった。

研究成果

• [文献書誌] 松井 健: "コスモロジーの類型論" 東洋文化研究所紀要. 125. 369-409 (1994)
• [文献書誌] 松井 健: "インド北西辺境の〈サガ〉" 月刊百科. 384. 19-21 (1994)
• [文献書誌] 松井 健: "分泌=排泄物の文化地理学" 国立歴史民俗博物館研究報告. 61. 171-185 (1995)
• [文献書誌] 松井 健: "イスラームと自然環境(近刊)" 講座 イスラーム世界. 4. (1995)
• [文献書誌] 永ノ尾 信悟: "‘TheNagapancami as Described in Puranas and its Treatment in the Dharmanibandhas.'" 南アジア研究. 第6号. 1-29 (1994)
• [文献書誌] 永ノ尾 信悟: "文献学者とフィールドワーク" 民博通信. 第67号. 11-16 (1995)
• [文献書誌] 三尾 稔: "ラージャスターンにおける儀礼演劇の社会的構成 -トゥイバル・グループ・ビールの舞踊演劇を中心として-" 南アジア研究. 第6号. 30-55 (1994)
• [文献書誌] 関根 康正: "「不可触民」をめぐる人類学的研究の現在" 歴史・思想・構造. (未刊). (1995)
• [文献書誌] 関根 康正: "アニミズム再考(共著)" 宗教の未来. (未刊). (1995)
• [文献書誌] 関根 康正: "暴力・政治・宗教-マドラス市の祭礼ビナ-ヤガ・チャトゥルティーの現在からの考察-" 宗教・民族・伝統. (未刊). (1995)
• [文献書誌] 関根 康正: "「正統」文化の変容とハリジャンの生活戦略" 南アジア・東南アジアにおける社会・宗教と伝統. (未刊). (1995)
• [文献書誌] Yasumasa SEKINE: "Rethinking Ambiguity of Hindu Women" Senri Ethnological Studies. (未刊). (1995)
• [文献書誌] 松井 健: "自然の文化人類学" 東京大学出版会, (近刊