研究課題
国際学術研究
本研究は延べ189日間の現地調査(内訳は野外調査が94年度50日、95年度40日、準備・博物館調査が94年度40日、95年度59日)が主体であり、野外調査を通じ人類および他の動物化石、旧石器などの文化遺物を発見・収集・比較研究し、同時に年代、古地形、古環境などの情報を可能な限り整備し、人類の進化と適応を考察することを目的としている。現地調査とデータ解析・解釈は大きく地質、古生物・古人類、先史考古の3分野に分けられ、研究代表者が全体の統合を行っている。以下に具体的な成果を分野別に要約する。地質調査は全体の層序・年代学調査と先史考古発掘調査のサポート活動との双方からなる。前者としては約360地点で柱状図を作成し、約300の火山灰サンプル(EPMA分析など対比用)、15のAr/Ar年代測定サンプル、6のC14年代測定サンプル、32の古環境指標サンプル(粘土、珪質堆積物、カルサイト)を採取した。野外調査の知見とこれらのサンプル分析により本調査域の約2/3の層序・年代の大要が明らかになった。また、一部のサンプルはなお整理・測定中であり、今後、より精密な解釈が期待される。本調査地の前期更新世の古人類資料を内包する地層は200メーター以上の層厚からなり、この中に26以上の火山灰層が断続的に存在する。94年度サンプルによる予備的な年代測定では上位のものが約130万年前、下位のものが約190万年前との値を得ているが、これらのサンプルのアルゴン含有量が低いため問題が残る。このため、95年度には採集層準・地点・方法を大きく見直し、良質なサンプルを得、目下、より厳密な年代測定を推進中である。調査地域内の古地形、古環境に関する一次成果も得られているが、堆積環境の解釈、堆積盆全体からの視点、諸環境指標の有効利用などの問題が残る。先史・考古発掘のサポート活動としてはKGA10地区南側の1/1000の地形図を作成し、約500メートルの範囲に23のトレンチを設け、詳細な古地形復元を推進した。これを基盤に、先史遺跡の解釈を進めている。古生物調査は、調査地域を稜線、河川などにより便宜的に分けた17地区のうち、主として、7つの地区で行った。標本は現場で一点ごとに番号を付し、採集地点(1/5000の空中写真に)と出土層準を記録した。エチオピア国立博物館の標本収容能が大幅に不足しているため、標本採集には基準を儲け、小中型哺乳動物の同定可能標本を中心に約4000点を採集した。この中に、ボイセイ猿人の良好な下顎骨など7点の人類化石が含まれる。これらの化石標本はエチオピア国立博物館に収蔵され、予備的なクリーニングおよび整理作業をようやく終えた。95年度には基本的な同定作業を行い、種構成リストを地区別に作製した。哺乳動物8目、21科、34属が含まれる。層序・年代からは大きく3群に分けられ、下位層準の動物相は200万年前ごろに一般的なウシ科、イノシシ科、ゾウ科の種を含み、180から190万年前の予備的年代測定値と合致する。中高位層準の動物相は東アフリカ他地域の150万年前ごろのものと類似している。今後は、当コレクションを用い、東アフリカの約180から130万年前の生層序の精度向上に貢献する予定である。また、地区、堆積環境により種構成が著しく異なり、初期人類の環境適応の考察が期待される。人類化石標本はエチオピア国立博物館にてクリーニング、補強、修復、型どりを行い、目下、比較研究を進めている。先史考古学の発掘調査はKGA10地区で7地点、KGA4、KGA8地区で各1地点で実施した。KGA10地区の発掘では特定層を約500メーターほど追い、石器および化石骨の出土状況と堆積環境との相関を見ることを目的としている。KGA4および8地区の発掘調査は高密度のアシュール型石器の出土を目的としている。中でもKGA4地区の発掘地点は160万年前以前の年代を持つ可能性があり、これが確認されると世界最古のハンドアックス遺跡となり、アシュール型文化の起源を考察する上で重要である。これらの発掘調査は今後も継続し、初期ホモ属の適応様式に関する一次データの蓄積とその考察を進める予定である。
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