研究課題
国際学術研究
残存する日本語・日本文化のデータ収集地域は旧統治領南洋群島に該当する、北マリアナ連邦サイパン、パラオ共和国、ミクロネシア連邦ポナペ・コスラエ・ヤップ・チューク各州である。それぞれ歴史保存局、ベラウ国立博物館、老人会等の協力を得ながら調査を行なった。マジュロ共和国については計画していたが、実行できなかった。文献資料の調査地は、太平洋地域の研究所のある大学、すなわちグアム大学ミクロネシア地域研究センター、ハワイ大学イ-ストウエストセンター、オーストラリア国立大学太平洋アジア研究所である。国内で散逸あるいは消失されている統治時代の官・民の試料がマイクロフィッシュ等で残されている。現時点での研究実績は次の通りである。1 統治下での日本語教育の実態と日本語習得状況各支庁管区によって公学校における教育のしかた、習得状況にばらつきがある。例えばヤップでは本科3年間学習者の母国であるヤップ語(離島民にとっては第2言語)の通訳つきで、日本語で国語を中心とする科目の教育が行なわれた。この間日本語の習得はひらがなカタカナが読める程度で発話能力は習得がかなり遅れていた。成績優秀者のみが進学する補習科2年間では寄宿舎においては日本語を強要されていたが、インフォーマントの内省では日本語が使いこなせる程度には至らなかった。日本語を習得したのは、卒業後日本人のもとで労働に従事した際であり、日本語の基礎は公学校で行なわれていたものの、自然習得に近い状況であった。一番日本人との接触率が高かったパラオ・コロールでの状況は次の通りである。公学校就学前から日本人子女との接触があったこともあり、本科1年のみパラオ語の通訳がつき、2年次生からは日本語のみで授業が行なわれた。インフォーマントの内省でも、授業が理解できる日本語が習得されていた。補習科においては練習生制度が設けられており、各児童が放課後割り当てられた日本人家庭において手伝いをしながら日本語運用の練習を目指していた。家庭によって仕事内容にばらつきがあるものの日本語習得のみならず、文化的側面にも大きな影響を与えた。2 残存する日本語・日本文化の実態日本語の使用実態は、言語の異なる異島民間での共通語として、口頭あるいはカタカナ書記で用いられている。さらに同世代どうしの仲間言語としても機能していることもある。日本語システムの実態は、習得および忘却との問題から簡略化が見られる。簡略化のしかたは母語によって異なっている。詳細については現在分析中であるが、例えばヤップにおける日本語の可能表現においては各種可能表現の中でデキルの汎用が目立つことや、5段動詞についても助動詞レルを付加した可能形を使用することが起こっていることが明らかになった。また、例えばヤップの日本語のテンスについては、過去の出来事を表す場合、一見ル形タ形自由変異で現れているようであるが、1人称とタ形が共起しやすいなどの傾向が見られることがある。借用語についても母語のフィルターを通して言語変化が起こっていることが明らかになった。その他の詳しい内容については各成果報告を参照されたい。3 成果報告の取りまとめについて既発表の論文のように各自発表する論文のほかに、まとまった成果報告書として『大阪大学文学部紀要』38号での特集刊行を予定している。他にもう1冊モノグラフとして外国大学からの出版も計画されている。
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