研究課題
1.紅河およびメコン両デルタ地域内の多数の地区での予備調査と資料的検討によって両デルタ内部における農地の地域性に関して必要な知見を得た。それを基に、本研究のための拠点調査地として4地区(紅河およびメコンデルタ各2地区)を選定するとともに、各地区約100戸の抽出農家を対象にして実施する共通調査票をプリテストを経て作成し、同調査を最終的に軌道に乗せた。さらに、両デルタ地域の稲作農業に関連する1980年以降の年次別基本統計資料の蒐集、2地点での米生産費に関する詳細な聞取り調査、水田農業の多角化と米流通に関する予備的調査等を行った。2.市場経済への移行後の両デルタ地域を中心にした稲作農業生産力に関して次のような点を確認した。すなわち、(1)1986年以降の生産力の上昇は著しく、それをもたらした要因は改良品種の普及、近代的投入の増加、管理諸作業の集約化等の技術的要因と農民の増産意欲の昂揚をもたらした制度的要因の両方に求めることができる。(2)稲作生産力の近年の増加率には大幅な地区別格差が認められ、一般に、水利等の環境条件の優良な地区で増加率が高く、不良な地区では増加率が低い。それを同時に、生産力の増加率は最近では次第に鈍化し、肥料等の近代的投入に対する限界生産力も低下しつつある。3.紅河およびメコンデルタ両地域における稲作農業の構造、技術と生産力水準、農家経済の水準と性格等についての著しい相違について確認し、農業の今後の発展条件について検討していくための基本的知見を得た。