研究課題/領域番号 |
06041094
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研究種目 |
国際学術研究
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 学術調査 |
研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
山倉 拓夫 大阪市立大学, 理学部, 教授 (10089956)
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研究分担者 |
柴田 耕造 大阪市立大学, 理学部, 教授 (30047229)
渡辺 幹男 愛知教育大学, 教育学部, 助手 (30270995)
ERNEST Chai サラワク林野庁, 造林技官
LEE Hua Seng サラワク林野庁, 副長官
大久保 達弘 宇都宮大学, 農学部, 助教授 (10176844)
高橋 智 大阪大学, 理学部, 講師 (70226835)
神崎 護 大阪市立大学, 理学部, 講師 (70183291)
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研究期間 (年度) |
1994 – 1995
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キーワード | 熱帯雨林 / 種の多様性 / 大面積調査区 / 遺伝子多様性 / 遺伝子浮動 / 熱帯林保全 / 熱帯林修復 / サラワク / Equilibrium hypothesis |
研究概要 |
はじめに 本研究は、サラワクのランビルの森に設定した世界最大の52ha調査区を用いて、未だ謎とされている熱帯雨林の高い種多様性を説明する論理を検討すると共に、種の多様性の保全と熱帯林修復のための基礎データを集めることを目的とする。 ランビルの森と調査区 ランビルの森は、マレーシア連邦サラワク州のランビル国立公園(北緯4°、東経114°)にある。調査地最寄りの測候所のデータでは、最乾月でも平均100mm/月の降雨があり、ランビルの森は乾季を欠く典型的熱帯雨林気候下にある。公園内には複数の森林タイプが認められ、各森林タイプの違いは第三紀の堆積岩由来の土壌母材の違いに対応している。主要森林タイプは砂岩および頁岩を母材とするアルティソル土上に成立する混合フタバガキ林である。52ha調査区は発達した林冠を持つ混合フタバガキ林内に設定した。 複雑な地形 調査区の地形は複雑で起伏に富み、調査区における標高の最高点と最低点の差は150mに達する。ヒプソダイアグラム上の積算土地面積と標高の関係は、調査区が急峻な斜面上部、なだらかな台地状の斜面中腹部、急峻で崖状の斜面下部から成ることを示した。調査区を1300個の20mx20m方形区に分け、各方形区毎に、標高、斜面方位、傾斜角、地形の凹凸度の地形変量を数学的に求めた。これらの地形変量の統計量は、調査区の地形が極めて複雑であることを示した。 高い種の多様性 調査区内の胸高直径1cm以上の材木358095個体の毎木調査から、1175種が記録された。この種数は日本産野生樹木の総種数1300に匹敵し、50ha大面積調査区が設定されているパソ-(西マレーシア)の1.5倍、BCI(パナマ)の3.8倍となった。上層に優占するフタバガキ科に限れば、その種数は86種となり、パソ-の森の同科の種数(30種)の2.8倍の値である。このことからランビルの森は、世界の熱帯雨林の中でも最も種の多様性が高い森林であるといえる。その理由として、好適な気候、複雑な地形、痩せた2つの土壌タイプ、豪雨に伴う地滑りなどの自然撹乱、歴史的理由などが考えられた。これらの理由は、気候と歴史的理由を除いて全て、相観や種組成が地形や土壌条件に依存して変動する現象と関わっている。 相観の局所変動とその地形依存性 種の多様性と相観(森林構造)は独立であり得る。相観を決める諸量として立木密度、胸高断面積合計、最大胸高直径、現存量、階層数の4変量をとりあげ、20mx20mの方形区ごとに4変量を計算した。4変量は方形区毎に激しく変化し、相観の局所変動を示唆した。方形区毎に求めた地形変量と相観変量に関する分散分析を行うと、相観は地形に依存して変化し、予測性が高いことが解った。 種の空間分布の地形依存性 調査区内での出現個体数が250個体以上で、かつ種同定結果の信頼性が高いフタバガキ科の種のデータを用いて、種の平面空間分布の局所変動を検討した。20mx20m方形区に出現する任意の種の個体数の地形依存性を分散分析の手法によって検定すると、地形に対して有意な個体数変動が認められなかった種(ゼネラリスト)と、有意な差が認められた種(スペシャリスト)が存在した。スペシャリストの存在は,地形が中立な環境条件でないことを示しており、群集多様性維持機構の説明仮説としてのニッチ説の有効性を示唆した。 密度依存性 20mx20m方形区の胸高直径データを用いて、個体の階層区分を行った。各層ごとに求めた平均胸高直径は各層の林木の密度の0.8乗に反比例して減少し、明確な密度依存性を示した。この現象もニッチ説の有効性を示唆している。 遺伝子多様性 アイソザイム分析によりリュウノウジュやオオバギなどの遺伝子解析を行うと、個体間の遺伝子交換は極めて小さな部分集団内で生じており、フェドロフが言及した遺伝子浮動が高い種多様性創設機構として有力であることが示唆された。 結論 上に述べた,相観および種の空間分布の地形依存性、個体サイズの密度依存性は、群集の多様性説明仮説として提案されている相対立する2つの仮説、群集平衡仮説および群集非平衡仮説の中、群集平衡仮説に有利な結果となった。また、遺伝子解析の結果は種多様性の創設仮説としての遺伝子浮動説を支持した。
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