研究課題
国際学術研究
1990年代のアフリカ諸国でほぼ同時期に進行中の経済の自由化(具体的には構造調整政策)と政治の民主化の相互作用について、それを支援する米国、英国、スウェーデン、フランスなど先進諸国の援助機関、およびこの問題を考察している大学、研究機関などを訪問し、聞き取り調査、意見交換、資料収集などを行うことを目的に、現地調査を行った。これは、第1年目に当たる1994年に実施した。アフリカ諸国での調査を補足するものであった。また、一部のアフリカ諸国については前年度に引き続いて現地調査を実施した。1994年の調査では、経済的自由化、政治的民主化を推進している当時国(アフリカ諸国)の場合、結果として主たる訪問先が政府機関や政府寄りの研究機関、産業団体などに片寄ったためか、構造調整政策の限界を(程度の差こそあれ)認めながらも、なお政策の転換については何らの展望も示すことができず、また90年代に雪崩現象的に進んでいる政治的民主化が、いかなる条件のもとで定着し、成熟していくかについての認識も不十分であり、かつ、少なくとも短期的に見た場合、構造調整政策が政治的安定性に対してネガティブな影響を与える可能性についても、明確な認識を持っていないという印象が強かった(第1年目の調査結果)。これに対して、1995年度(第2年目)の調査では、英国、スウェーデンなどの政府援助機関でさえも、必ずしも構造調整政策におけるこれまでの試行錯誤の実施過程については、冷静に見ており、民主化過程についても、必ずしも楽観的な評価をしているわけではないことを、うかがい知ることができた。米国ではIMF、世界銀行のエジプト、モロッコをはじめとする北アフリカ担当者たちとのインタビューを行ったが、一般的印象として、世銀の各地域専門家たとは基本的には新古典派の開発経済学に立脚しているものの、現地情勢の認識は政治、経済ともに慎重かつ中立的に捉えようとする姿勢が見られた。これら援助機関では、構造調整が比較的成果をおさめたのは、モロッコ、チュニジアであり、エジプトでは構造調整融資がなされたものの、進展はあまり見られないという見解に多く接した。北アフリカ諸国については、EUなど地域機構が北アフリカに対していかなる政策をとろうとしているかを調査し、また欧州と北アフリカの地域安全保障の枠組み、北アフリカ諸国における軍部の動向、特に民主化と経済の自由化に対する軍の対応、イスラーム主義勢力の台頭が軍組織に与えた影響について意見聴取ならびに資料収集を実施した。また、カナダの調査ではアフリカの国際社会における周縁化は現実であり、従来の先進諸国の支援内容の質的変化と消極性に鑑みて、アフリカの内部での自己変革という厳しい状況はここ当分続けざるを得ないとの印象を強く持った。ナイジェリアでは1998年の民政移管を目指した新たなスケジュールが発表され、旧来の政治勢力を中心に連合・結託が進む反面、国際世論が厳しさを増しており、実質的に軍事政権は国際監視の下に置かれたに等しい。民主化を展望する上では、国内の政治経済動向とともに国際環境への配慮が不可欠である。また、ブルキナファソの構造調整プログラムの実施は比較的順調であった。プログラム策定の際には政府は国民集会も開き説明を行い、一般国民の意見を訊くなど民主的手法も採られた。ただ、1994年1月のCFAフラン切り下げにより、プログラムの実施に新たな困難が加わった。切り下げ後に期待されたマクロ経済の回復は起こらず、ショック緩和のための政府補完措置により一応の社会・経済的安定が期待されているとの印象を得た。平成7年度に先進諸国で実施した調査から、これら諸国の援助機関、研究機関ではある程度の政治的安定性を保ちながらの民主化の進行が求められている現代アフリカ諸国の政治が構造調整によってネガティブな影響を受ける傾向があるという点についてもそれなりの認識をもっているようである。特に、研究機関、例えば英国リ-ジェンツ・カレジの海外開発研究所(ODI)のジョン・ヒ-リ(John・Healey)氏のように、アフリカ諸国で推進されつつある民主化が定着し、成熟して行くには、さまざまな社会集団、利益集団の噴出が不可欠であるという見解を示す研究者もいた。
すべて その他
すべて 文献書誌 (20件)