中国・新疆・トゥルファン地区の総合的調査

1996 年度 研究成果報告書概要

• 研究課題/領域番号: 06041106
• 研究種目: 国際学術研究
• 配分区分: 補助金
• 応募区分: 学術調査
• 研究機関: 早稲田大学
• 研究代表者: 長沢 和俊 早稲田大学, 文学部, 教授 (60083333)
• 研究分担者: 趙 靜 中国新疆文物考古研究所, 研究員 ; 張 樹春 中国新疆文物考古研究所, 研究員 ; 劉 文鎖 中国新疆文物考古研究所, 研究員 ; 王 宗磊 中国新疆文物考古研究所, 研究員 ; 李 肖 中国新疆文物考古研究所, 研究員 ; 王 炳華 中国新疆文物考古研究所, 所長 ; 杉本 良 北上市埋蔵文化財調査室, 研究員 ; 昆 彭生 早稲田大学, 埋蔵文化財調査室, 研究員 ; 荒川 正晴 大阪大学, 文学部, 助教授 (10283699) ; 櫻井 清彦 昭和女子大学, 文学部, 教授 (60063195) ; 大橋 一章 早稲田大学, 文学部, 教授 (80120905) ; 岡内 三真 早稲田大学, 文学部, 教授 (90093210) ; WAN Zong Lei Xin-jiang Archaeological Institute, Member ; WAN Bin Hoa Xin-jiang Archaeological Institute, Head ; ZHANG Shu Chun Xin-jiang Archaeological Institute, Member ; ZHAO Jung Xin-jiang Archaeological Institute, Member
• 研究期間 (年度): 1994 – 1996
• キーワード: 交河故城 / 溝西墓 / 高昌国 / 高昌貴族 / 電硫探査 / 車師前国 / 黄金の王冠 / 黄金のブロ-チ

研究概要

われわれは平成6年から同8年にかけて、トルファン地区の総合調査を実施した。調査はそれぞれ分担研究者の専門により、美術史学の大橋教授はベゼクリス、トスクチ仏洞を、故書学の荒川助教授はトルファン文書の研究を行なったが、とくに共通のフィールドとしては、交河故城西方の溝西墓の発掘調査に全力を傾注してきた。周知の通り交河故城は今から2200年前から広くこの地方を支配してきた車師前国の都城で、溝西墓にはその車師前国時代の墓と、5世紀の高昌国から唐代にかけて、この地方に進出した漢民族の古墓群があり、その総数は2000基以上もある。以下、溝西墓の発掘調査を中心に、3年間の研究実績を総括してみると、次の通りである。
(1)平成6年度:初年度はまず全隊員により、トルファン地区のGeneral Surveyが行われた。即ち高昌故城、アスターナ、ベゼクリクチ仏洞、蘇交塔など、トルファンの主要史跡を踏査し、各遺跡の史的意義、トルファン文書との関連などを調べた。さらに共通のフィールドとしての交河故城西方の溝西墓については、頼るべき地図がないので、新疆測量部の協力により、溝西墓(東西約3km、南北約1km)全域の測量を開始した。この測量により平成6年度末までに全域の1/500地図が出来上った。また王炳華氏の選定により、溝西墓のほぼ中心部で4か所の高昌国時代の墓を試掘した。その際、田中地質コンサルタントKKの協力を得て、遺跡の電磁波探査、気球による航空測量などを行なった。こうした物理探査は中国とくに新疆では最初の試みで、多くの考古学関係者の関心を集めた。この年に発掘した第2号墓からは墓碑が出土し、この墓は某氏の妻氾氏の墓で、589年に没したことが確認された。これによって溝西墓は、交河城にいた高昌貴族(6〜8世紀)と唐人の墓であることが分り、今後発掘地域を拡大することにより、アスターナと同じようなミイラ、古文書、絹織物等、副葬品の出土が期待された。
(2)平成7年度:2年目には西北部の高昌国の豪族、麹氏と張氏の螢城から2か所、中央部のマウンドのない墓(三年物理探査で発見)2か所、南部の唐代の墓と思われるもの5墓計9基の墓を発掘、2個の墓誌、未盗掘の墓1基を発掘した。発掘後、墓の中央にトレンチを入れ、墓の構造も検討した。また田中地質の気球により前年度失敗した溝西墓、交河故城の空中撮影に成功した。今年度は9基の墓を発掘したが、ここは盗墓が盛んでほとんど盗掘されており、かつ墓室内の湿度・気温が意外に高く、有機物やめぼしい遺物は、ほとんど出土しないことが明らかになった。
(3)平成8年度:そこで今年度はまず次の基礎調査の達成をめざした。
(1)遺跡全域の1/500地形図の作成。…これは平成6-7年度に完成した。
(2)250m四方の遺跡地図の完成…本年度の夏、不足分を補って完成。
(3)全古墓の実測(Numbering)とデータベース化…実測は今夏終り、現在早稲田大学電算室でデータベース化しつつある。
ついで本年度の発掘調査は、遺物の出そうな高い地域の墓4か所で8基の墓を発掘した。しかしこれらの高い地区の墓はいずれもすっかり盗掘されていて、遺骨のほか何も残っていなかった。そこで発掘主任の岡内教授は発想の転換をはかり、車師前国期の墓を発見し、ここを発掘した。その結果、そこから黄金の王冠、黄金の指輪、ブロ-チ、南海産の貝符、星雲文鏡が出土し、近くの17号墓からは黄金の髪飾り、トルコ石の首飾り、黄金製のバックルや脚飾りなどが出土し、車師人の王侯・貴族の黄金装飾品がワンセットで出土し、併出した星雲文鏡や五銖銭から、時代も前一世紀と特定でき、王炳華所長も「これだけ金製品がまとまって出土したことは新疆はもとより全中国でも珍しく、おそらく今年度の中国考古学で最も重要な発掘の1つ」と評価された。これらの出土品のうち王冠は明らかにスキタイ・サウロマタイ風で、ブロ-チや指輪は、西アジア工芸品の影響をましており、バックルや足飾りはモンゴル高原から青銅の類似品が出ており、貝符は南海産、漢鏡と五銖銭は中国の影響をまし、当時のトルファンが東西文明の十字路にあったことを示している。又殉葬馬や鉄鏃、轡の出土は車師が騎馬民族であることを示している。

研究成果

• [文献書誌] 長澤和俊: "トルファン交河故城溝西墓の発掘調査" 早稲田大学大学院文学研究科紀要. 42冊. 76-97 (1997)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] 長澤和俊: "トルファン地区の発掘調査" 中国新疆トルファン地区の総合的調査(文部省国際学術研究中間報告書). 1. 1-10 (1996)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] 長澤和俊: "宗雲行紀の再検討" 史観. 130冊. 32-46 (1994)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] 岡内三真: "トルファン・アールホト古墳群の変遷" 史観. 136. (1997)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] 岡内三真: "アールホト古墳群の占地と配列" 中国新疆トルファン地区の総合的調査(文部省国際学術研究中間報告書). 1. 14-18 (1996)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] 荒川正晴: "アールホト古墳群の墓表・墓誌" 中国新疆トルファン地区の総合的調査(文部省国際学術研究中間報告書). 1. 19-27 (1996)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] 長澤和俊: "棲蘭王国史の研究(文部省出版助成出版)" 雄山閣, 720+20 (1996)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] 長澤和俊: "法顕伝 訳注・解説" 雄山閣, 328+8 (1996)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] 長澤和俊: "マルコポ-ロ東方見聞録" 小学館, 284 (1996)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] 岡内三真: "韓国の前方後円墳" 雄山閣, (1996)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] 大橋一章: "天寿國繍帳の研究" 吉川弘文館, 318 (1995)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] 長澤和俊: "新シルクロード百科" 雄山閣, 420 (1994)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] K.NAGASAWA: "An Archaeological Study of the Yar-khoto's Necropolis in Turfan of Xinjiang, China" Bulletin of the Graduate Division of WASEDA University. 42-4. 3-23 (1996)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] K.NAGASAAWA: "Archaeological Study in Turfan region" A Synthetic Study of Turfan region, Xinjang. 1. 1-10 (1996)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] K.KAGASAWA: "A Reexamination of the Travels of Sung-Yun" SHI-KAN(****). 130. 32-46 (1994)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] M.OKAUCHI: "A Study of Development of Yar・khoto tombs in Turfan" SHI-KAN(****). 136 (forthcoming). (1997)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] M.OKAUCHI: "The Stuation and Grouping of Yarkhoto tombs." A Synthetic Study of Turfan region, Xinjiang. 1. 14-18 (1996)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] K.SAKURAI: "Several problem on the cultural exchange between the East and West" A Synthetic Study of Turfan region, Xinjiang. 1. 11-13 (1996)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] K.NAGASAWA: Yuzankaku (******). A Study of the History of Loulan Kingdom, 1-720+20 (1996)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] K.NAGASAWA: Yuzankaku. The Travels of Fah-hian, 1-328 (1996)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] K.NAGASAWA: Shogaku-kan. The Travels of Marco Polo, 1-284 (1996)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] M.OKAUCHI: Yuzan-kaku. The Keyhole shaped tombs in South-West Korea, 1-188 (1996)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] K.OHASHI: YOSHIKAWA-KOBUNDO. The Study of the embroidery brocade of Tenjukoku (******), 1-318 (1995)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] K.NAGASAWA: YUZAN KAKU. Handbook of a new Silk・Road, 1-420 (1994)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より