研究課題
国際学術研究
中央アンデスのペル-における中央/地方、都市/農村関係の動態の特性は、前者から後者への「近代化」が急速に進行すると同時に、後者から前者への影響としてのアンデス化が、さまざまな局面で進行していることにある。すなわち、ペル-においては、アンデス高地の農民の価値観、行動様式が、農民社会と地方都市社会との不断の相互作用を通じて、ペル-国全体に広く浸透するにいたっているといえる。ペル-の国民文化は、この「近代化」と「アンデス化」の相互浸透と干渉の過程を経て形成され、また変化する。申請者等は、上記の前提にたって平均6〜7年度の2期にわたり中央アンデス・ペル-の南部高地(クスコ)、中部高地(アヤクチョ)、北部海岸(トルヒヨ、ピウラ)において調査を実施した。その成果を、平成6年度に提出した「計画」に対応させて5つの側面に分けて以下に述べる。1.歴史(1)初中等教育を通じての歴史観の形成 : 1940年代から現在までほぼ10年単位で中学校の歴史教科書を収集。現在そこに見られる記述の変化を分析中。(2)北海岸地方都市の形成 : 古文書資料に基づき、ペル-北海岸の都市トルヒヨの成立過程を、特にカトリックの宗教活動を中心に解明。(3)歴史における農民運動の位置付け : クスコ大学文書館、農林省における農地改革関係資料、農地売買契約書などの資料収集と、土地所有制についての聞き取り調査。今世紀初頭クスコにおいて生じた大農園経営の変化と、それが農地改革へ与えた影響の解明。2.文字化(1)地方の出版活動と知識人 : 19世紀末以来アヤクチョ地方で刊行された多くの雑誌その他の出版物のテクスト分析により今世紀前半における地方知識人の活動を再構成し、地域のアイデンティティ形成にかかわる地方知識人の役割とその限界の解明。3.思想(1)反近代としてのインカ土着主義 : 観光都市クスコにおいてアンデス農民の地霊・山霊信仰が、「本物」のインカ先住民の宗教体験を求める観光客の需要に応じて商品化が行われ、それに伴う種々の変化が生じていることの解明。(2)民衆カトリシズム : 非公認の祭祀集団(クスコ市のニ-ニョ[幼子のイエス]崇拝)の成立と展開、同じくクスコ市のマーケットの女性商人が組織する「聖女アスンタ」の祝祭の社会経済的機能、北海岸の小都市オトゥスコにおける聖女デ・ラ・ブエルタの祝祭などの調査を通じて、カトリック教会の公認/非公認、南高地/北海岸といった違いにより、土着の観念・儀礼の取り込み方に差が見られることを解明。4.文学・民俗芸術(1)演劇・文学におけるアンデス伝統 : ペル-、ボリビアの農村部でカトリック祝祭の機会に上演されるインカ帝国の征服を題材にした民衆劇「アタワルパの最後」は、征服の歴史に対する農民側からの別の解釈を提示する。(2)造形表現におけるアンデス伝統 : 北部海岸ピウラ地方の焼き物の製作技法に見られるアンデス伝統(たたき成型、いぶし、石を使った磨研)の成立過程。5.言語581スペイン語/ケチュア語の相互干渉 : 中部高地のスペイン語は、都市、農村を問わず先住民言語(ケチュア)の影響を受けて、標準スペイン語とは明らかに区別される高地スペイン語を形成し、山地の都市、農村間の共通伝統を形成し、地域のアイデンティティ形成の基盤を提供する。なお、補充調査により(1)カ-ニバルのアンデス的特性、(2)民衆芸術の都市における流通過程の調査を行い、期待した資料を得ることができた。その成果については目下分析中である。
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