研究課題
本年度は、昨年度から継続して中国遼寧省藩陽市において胃がん症例および健常対照者の質問票調査と血清検体の集積を行った。1995年2月現在、症例114例,対照342例の集積を完了した。症例の内訳は、男性80例、女性34例で、60歳代の症例が40例(35%)と最も多く、年齢のレンジは、28歳から80歳であった。病理組織所見が判明したものだけを集計すると、低分化および未分化がんの割合は、男性で51.4%(19/37)、女性で69.6%(16/23)であった。日本消化器集団検診学会平成4年度全国集計によれば、わが国における胃がんの低分化、未分化がんの割合は男性30.6%(1127/3677)、女性で54.1%(1023/1892)であるので、中国では低分化・未分化がんの割合が高いことがわかった。この結果は、分化型がんの先行病変とされている萎縮性胃炎の有病率が、わが国に比べて中国で低い(日本の萎縮性胃炎の有病率は男性で30.0%、女性で26.7%、中国のそれは男性で5.2%、女性で10.3%)という昨年度の報告と矛盾しないものであった。Helicobacter pylori抗体の保有率は、日中で大きな差を認めなかったことから、中国においては、Helicobacter pylori感染による萎縮性胃炎の進展が何らかの機序で抑制されている半面、低分化・未分化がんを惹起する他の要因の関与が想定される。