研究課題
旧ソ連邦の崩壊後、主にベラル-シを中心に小児甲状腺がんの検診プログラムへの参加とミンスク、ゴメリと学術共同研究を行ってきた。ゴメリ州を中心とした小児の検診ではすでに3万人を診断し、60名以上の小児甲状腺がん患者が手術を受けている。そのうちミンスクがんセンターで病理標本が確認された19例の解析結果を公表した(Int. J. Cancer 65 ; 29-33, 1996)。現在施行中の甲状腺超音波画像とエコー下biopsyの結果についても小児甲状腺疾患の特徴を明らかにした(Acta Cytol in press)。平成8年度の現地調査ではチェルノブイル周辺の現場以外に、特にモスクワの放射線医学研究所、内分泌研究所等のスタッフと被曝線量の再評価や、各疾患の診断や治療について討議できた。旧ソ連邦の放射線医学の実態や科学レベルを解析するため、カザフ共和国を訪問し、チェルノブイリ原発事故の対応に中心的役割を果たしたセミパラチンスクを訪問した。セミパラの住民健康調査は、1949年8月29日の第一回核実験後10年目に科学アカデミーの調査をうけ、その後の多くの資料は軍事極秘扱いとなっている。1991年のカザフ共和国独立後、徐々に資料が公開され、その一部(1958年版)を日本語へと翻訳した。その結果、チェルノブイリ原発事故に対する旧ソ連邦の対応や対策はこれらのデータを基本にしていることが理解された。ベラル-シに限らず、ウクライナも同様な被害状況であり、小児甲状腺がんの調査が必要である。経済状況の悪化など問題山積の中、事故後10周年を過ぎ、学術共同研究のための資金確保が大きな問題となっている。一方、招聘した研究者は当該教室にて、患者リンパ球を用いた遺伝子解析を行いPit-1遺伝子の点突然変異を発見している。さらに今後ゴメリを中心に予定されているケースコントロールスタディーやコ-ホ-トスタディについて詳細な検討を加え、平成9年4月以降も着実に共同研究を引き継ぐことが可能である。
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