研究概要 |
慢性石灰化膵炎(Chronic Calcifying Pancreatitis of Tropic CCPT)は,熱帯諸国で頻度の高い疾患とされているが,インド南部のTrivandrum市を中心とするKerala州においてはその発生頻度はインドの他州に比べ約8倍と高く,若年性に膵管腺癌(Pancreatic duct adenocarcinomas:PDA)の発生することが判明している。近年,膵癌に関する研究は活発になされてはいるが,慢性膵炎と膵癌発生の関連については議論が多く,これを追求しえる実験モデルの報告はない。本研究の目的は,インドKerala州におけるCCPT症例における膵癌発生の実態について疫学的調査を行うと共に臨床像と病理組織学的特徴を明らかにしてCCPTとPDA発生の相関を明らかにせんとすることにある。 インド側医師と討論し,前年度に報告した検索群をもとに症例を蓄積した。第1群は対象群で146人,第2群はCCPT群で44人,第3群はPDA群で79人,第4群はCCPTにPDAを合併した群で23人であった。これら各群の症例について,疫学的には前年度に報告したchartを用いてcase-control studyを行った。臨床的診断は,エコー,時にCT,X線と黄疸及び疼痛症状により行い,治療は内科的又は外科的に行った。病理組織学的には,生検又は手術材料を用いてH-E染色で観察すると共に,パラフィン包埋材料を用いて可能な症例についてはPCR-SSCP法にてK-ras及びexon7,8と9領域におけるp53突然変異について検索した。各群における男性対女性比と年令分布は表1に示す。 第2群に於ては30才未満の若年にてもCCPTが発症し,第4群のCCPTに合併するPDAの年令分布は,CCPTを合併しないPDAよりも若年化していた。主たる症状は,腹痛,黄疸,体重減少と糖尿病で,腹痛は第2,3と4群で87%以上の頻度で訴え,黄疸は第3群で93%,第4群で52%であったが第2群では2.3%と低率であった。体重減少は,第3群と4群でそれぞれ89%,70%と高率であったが第2群では9.1%と低率であった。糖尿病の合併率は第2群で65.9%,第3群で19%,第4群で61%であった。膵管内結石局在は,第2群のCCPT群では44例中35例が主膵管び慢性に存在し,頭部に限局していたものは8例,尾部は1例であった。膵管内結石の形成は第3群ではみられず、第4群では全例に主膵管び慢性に存在していた。一方膵管癌の局在は,第3群にて頭部が91%,尾部が3%,全膵にいたるび慢性が6%であったが第4群では頭部47%,体部4%,頭体部9%,体尾部9%,び慢性が17%,手術時肉眼的に腫瘍の存在を明確にできなかったものが13%であった。腫瘍細胞の局所浸潤は第3と4群でいづれも72%と74%と高率であったが肝転移は第3群で42%であったのに比べ第4群ではわずか4%であった。腹腔内転移は,第3群で28%,第4群で35%であった。治療について,切除率は,第3群で8%,第4群で4%と低く,殆どがby-pass手術のみ施行され,開腹生検のみは第3群4%と第4群9%であった。術後生存は第3と4群に差はなく殆どの症例は1年以内で死亡していた。組織学的には,第3と4群の癌は全て膵管腺癌で第3群では高分化腺癌の頻度は高く粘液癌もみられたが第4群では1例を除き中等度または低分化の膵管腺癌であった。p53の突然変異は,第3群において29例中2例と低率であった。K-rasの突然変異はexonlのコドン12の第1位のGからTへの変異で第3群で20例中4例第4群で2例中1例であった。疫学的には,各群について性と年令をマッチさせたcase-control studyを行った。Controlは大学病院へ来た患者の親戚や友人より選択した。野菜とフルーツを毎日食べている人では膵癌のリスクは低く,又,Cassavaを常食としている人は慢性膵炎合併膵癌のリスクが約7倍と高いことが判明した。本年度の成果より,インドKerala州における調査研究により,結石を伴う膵炎は膵管癌の発生に対し高いリスクを有し,慢性石灰化膵炎と膵癌発生の相関が見出され,これら疾患の発生に低蛋白高炭水化物であるCassavaの常食の関与が示唆された。
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