研究概要 |
膨大な埋蔵量が知られているビクトリア褐炭は極めて反応性に富み,機能性材料の原料として注目されているが,複雑な物理的・化学的特性の解明とそれに基づく利用技術の開発が遅れている.本研究ではこの褐炭の特性を解明して,新しい用途を開発する基礎を纏めることを目的とし,1988年からの共同研究での知識の蓄積と人的な繁がりを武器とし,研究を展開した.平成6年度には5名の研究協力者を派遣して共同研究を行い,得られた成果を各研究機関で更に展開し,褐炭の特性と利用技術について次のような成果を得た. 西山・尾崎は(1)褐炭のイオン交換特性と交換されたカチオンの褐炭の熱分解への影響を調べ,陽イオン種により分解する温度や生成物が異なることを示し,(2)鉄炭素複合体中での鉄の状態を,Monash大学と共同して,メスバウアーなどの分光法で吟味して,鉄の存在状態に依り炭素の性状が大きく変化することを見出し,(3)HRLのAllardice博士らと共同で褐炭のブリケットの安定性を調べ,吸水破壊過程が表面官能基の種類に依存する分子間相互作用の違いで説明できることを明らかにする,などの成果を得ている. 真田・熊谷はオーストラリアのCSIROが開発した高温NMRを使用して加熱時の石炭分子の運動性を調べ,北海道大学での熱天秤測定や高温EPR測定結果と対比させ,加熱による軽質分の揮発と軟化溶融に伴う凝集構造の変化を分子運動性の観点から評価する手法を示した。また,褐炭の凝集状態をコロイド化学的な手法を用いて研究し,メタノール-アルカリ溶液中では水素結合の解離により均一に分散したコロイドとなることを明らかにした.その他,褐炭の乾燥や脱水に伴う構造変化をNMRやDSCで調べ,NMRが有用な知見を与えることを示した. 持田・光来は(1)高活性で残渣との分離による回収・再利用が容易な石炭液化触媒として微粒中空カーボンブラックを担体とするニッケルモリブデン触媒を調製して活性,回収性を確認し,(2)コールタールピッチから製造した高表面積の活性炭素繊維による室温低濃度のSOx,NOxの捕捉,還元無害化の可能性を明らかにし,(3)ナフタリン,メチルナフタリンから合成した液晶ピッチから製造される高機能炭素繊維の微細構造を高分解能SEM,TEM,STMを用いて解析し,機能に関連すると見られるミクロ及びメソスコピックな炭素集合単位を見い出している. 飯野・鷹觜はSwinburne工業大学と共同で,褐炭のN-メチル-2-ピロリジノンによる溶媒抽出物と抽出残渣のスラリーの粘弾性測定を行い,抽出残渣を試料とした場合には原炭の場合と類似の挙動が見られるが,抽出物ではゲル状となる濃度が高く,粘性,弾性やそれらの周波数依存性が原炭や残渣と異なっており,異なるゲル構造が形成されると考えられることを示し,これについてはフミン酸の関与が考えられることを指摘した. 菅原・菅原はこれまで研究を進めてきた石炭中の硫黄分の低減化方式のオーストラリア産のMuswellbrook炭への適応性を検討し,アルカリ処理と急速熱分解を組み合わせるプロセスにより硫黄分を0.04%まで減少させられること,比重分離試料間の比較では低比重成分の方が除去率が大きいこと,スルフォキシド型の有機硫黄が急速熱分解時に選択的に除去されていることなどを明らかにし,環境問題に適合させる活用の方向を示した. 以上の成果を踏まえ,平成7年度には代表者および日本側の研究分担者がオーストラリアを訪問して,関係する研究者と成果を討論・総括するための全体総括集会を開催した.この集会にはオーストラリア側の分担者だけでなく関連する研究者も出席し,双方からの11件の発表について,率直な意見の交換を行い,本共同研究の評価を行った.同時に石炭関連研究機関や使用企業を視察し,今後の展開のための情報を得た. 上の研究遂行と並行して,褐炭の土壌改良や吸着剤への利用技術を研究している2名の専門家,A.F.Patti博士とM.Hobday博士,を招聘して講演会や個別の討論を進め,実用的な応用分野についての視点を得ることができた.以上のように,褐炭の特性把握には格段の進歩がなされたのみならず,オーストラリアの石炭研究者と揺るがぬ共同体制を樹立できたことは本研究の多大な成果と考えている.
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