研究課題
国際学術研究
本研究は、米国ならびにイスラエルの研究者達と議論を交し、現在の物性物理の種々の問題を解明することを目的とした。以下にその具体的な成果を述べる。1)Avishai、初貝、甲元はディスオーダーのある系の新しいユニバーサリティークラスを求めるために、ランダム2行列模型を研究した。特に、二つのエネルギーレベルの相関を計算し、ガウシアンユニタリーアンサンブルの場合よりレベル間隔の反発が強いことを示した。2)初貝、甲元、高麗、Wuは、ボゾンでもフェルミオンでもない排他的統計をもつ理想気体(エクスクル-ゾン)が、ベ-テ仮説で解ける一次元XXZスピン鎖、ハバ-ド模型の低エネルギー状態を記述することを示した。また、任意の次元で可解となりモット金属絶縁体転移を示す模型等の場合は、このエクスクル-ゾンによる記述が厳密になることを議論した。さらに、ベ-テ仮説を用いる際には、ストリング解と呼ばれる状態が低温での熱力学に重要な働きをすること、高次元可解模型がスピンと電荷の分離をおこしていることを示した。3)初貝、甲元、Wuは磁場のかかった2次元のタイトバインディング模型の1電子状態波動関数を量子群を用いて研究し、この系のハミルトニアンが量子群の生成元の線形結合で書けることを示した。また、Wiegmann、Zabrodinによると、この電子の波動関数を求めることはベ-テ仮説方程式を解くことと同値である。このベ-テ方程式をいろいろな状況において解き、フラクタルの性質を持つ波動関数、規格化のできない波動関数など興味深い波動関数を得た。4)永長、甲元は分数量子ホール効果を実効的に記述するものとして、チャーンサイモンゲージ場と分数電荷を持つボゾンからなる作用を研究した。この際、Wen、Zee達との議論は非常に意味深いものであった。この有効作用は、単に適当なゲージ場の境界条件を課すことだけによりゲージ交換のもとで不変であることが示された。従来の議論においては、作用のゲージ不変性はかならずしも物理的とは言えない一次元の作用(エッジモードと呼ばれている)を手で加えることによって回復していたことに注意したい。いくつかの状況でこの作用を調べてやると、分数量子ホール電流が量子化していること、境界から内部へ向けて指数関数的に減衰するエッジと呼ぶべきモードを取り出すことは、電場を加えることなしには困難であることなどを議論した。5)山中、Avishai、甲元は一次元においてランダムネスによる電子の局在を調べた。転送行列を用いた計算を数値的に実行することにより、ある模型が新しいユニバーサリティーに属していることを見い出した。6)Avishai、甲元は二次元のランダム磁場中の電子のエネルギースペクトラムを研究し、その相関が、氷上とZeeによって発見されたバイパ-タイトのエルミート行列に関するランダム行列模型で代表される新しいユニバーサリティーに属していることを示した。これは、新しい数学の物理系における実現として興味深い。7)初貝、Wen、甲元はランダムネスのある二次元の系の臨界現象を研究するために、ランダムボンド、またはランダム磁場をもつ模型を調べ、ゼロエネルギー状態の付近では、虚のランダム化学ポテンシャル、実のランダム質量、虚のゲージ場に結合した二つのディラックフェルミオンで記述できることを示した。Ludwig達の結果により、この模型が、ゼロエネルギー、弱いランダムネスではクリティカルである可能性が高いことを指摘した。
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