研究概要 |
平成7年度の後半から特に力を入れて研究しはじめた量子色力学におけるU_A(1)アノマリーのハミルトニアン形式での記述を継続して行った。アノマリーは場の理論における発散の正則化と密接に結びついており,従来,ゲージ不変な正則化によって導かれるとされていたが,比較的簡単な量子電気力学の場合に詳しく調べて結果,ゲージ不変性だけでは不定性が残り、正しい結果が導けないことがわかった.また、アノマリーの導出には軸性ベクトル流の正則化が本質的であり、ハミルトニアンの正則化は第二義的であることもわかった.ゲージ不変性に加えてどのような要請を正則化に課すかについては検討中である. 一方,平成6年度の終りから行っている格子ゲージ理論におけるクェンチ近似の研究に関しては,フェルミオンに対応するスピン的な自由度とゲージ場に対応する調和振動子との結合系という簡単な模型で,この近似の成立条件を調べた。結合系の運動が基本自由度の運動に比べて遅いという一種の断熱近似に相当するのではないかと推定されるが,上の模型の数値シミュレーションにより,より明確な結論を出すことを試みている。 こうした量子色力学の基本的な問題の研究に加えて,それによって得られた知見を参考にした現象論的模型の構築と現象の分析が日本側研究者によって行われた。そのひとつは,中間子のスペクトルやカイラル相転移の記述に成功している南部・ジョナ-ラジニオ(NJL)模型による核子の研究で,3個のフォーク系に対する相対論的ファデエフ方程式の解として得られた束縛状態を核子と考え,その電弱相互作用モーメントを計算して実験と比較し,核子の現実的な模型として十分に通用することを示した。もうひとつは,高エネルギーの準弾性過程における始,終状態相互作用の効果(nuclear transparency)の研究で,核子の内部構造に対する相対論的クォーク模型によって,内部励起の影響を調べ,いわゆる色透明度(color transparency)の予想について検討した.
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