研究分担者 |
テイース ミハエル エルランゲン, ニュルンベルグ大学・理論物理部, 教授
レンツ フリーダー エルランゲン, ニュルンベルグ大学・理論物理部, 教授
太田 浩一 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 教授 (30012496)
THIES Michael Institute of Theoretical Physics, Univ.of Erlangen-Nuruberg, Professor
LENZ Frieder Institute of Theoretical Physics, Univ.of Erlangen-Nuruberg, Professor
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研究概要 |
量子色力学(QCD)は原子核を含むハドロン系を支配する強い相互作用の基礎理論であると考えられている。ゲージ場の理論であるQCDを有限な区間でのハルミトニアン形式で定式化し,非摂動領域の解析的および数値的な分析を行って,閉じ込めの機構,カイラル対称性の自発的破れ,U_A(1)アノマリー等低エネルギーでのハドロン物理の基本的問題に挑戦するのがこの研究の目的であった。その中には、QCDの格子ゲージ理論による定式化との関係の研究やQCDを背景とした模型の構築とそれによる現象の分析も含まれている。平成6年度からの3年間にわたる共同研究により,その目的の相当な部分は達成され,日本側,ドイツ側グループのそれぞれの成果として発表されているものも多いが,両者合同の成果は一部を除いて現在完成しつつある段階で,近い将来発表できる予定である。 次にそれぞれの成果を簡潔に述べる。 1.QCDの有限区間におけるハミルトニアン形式 有限区間での定式化の特徴は、場の固有モードの波数ベクトルが離散化し,波数ベクトルOのモード(ゼロモード)の役割が明確になることである。日本側研究分担者太田はドイツ側研究分担者と協力して,まずお手本となる量子電気力学(QED)の場合にゼロモードの役割を明らかにした。そこで用いられたゲージ固定の方法を拡張してQCDのゲージ固定が行われ,最終的に軸性ゲージ(axial gauge)でのハミルトニアンが,ドイツ側のグループによって得られた。このハハルトニアンの摂動的扱いは研究協力者平田とドイツ側グループの大学院生により試みられた。 2.ゼロモードと閉じ込め 1+1次元のQCDでは,ゲージ場の自由度はゼロモードのみとなるが,それによりクォーク反クォーク間の距離に比例するポテンシャル(閉じ込め)が生じることは知られているが、研究代表者のグループとドイツ側グループは独立にゼロモードの役割を分析した。また、ドイツ側グループは,3+1次元のQCDの場合に,上述のハミルトニアンを用いて同様な考察を行い,軸性ゲージの縦方向のゼロモードが閉じ込めに重要な役割を果たしている可能性を示した。 3.有限温度でのQCD 経路積分による時空をユークリッド化した定式化では,空間3軸と時間1軸は全く同等であることに着目し,空間の1次元だけを有限区間とすることは有限温度の場合に対応することを利用して,有限温度のQCDを分析する試みが主としてドイツ側グループと研究協力者田中によって行われている。 4.格子ゲージ理論におけるクェンチ近似 QCDの格子ゲージ理論に基く数値シミュレーションでは,クォークを力学的には扱わないクェンチ近似がよい近似として成立していることが知られている。しかし,その理論的基礎は明らかにされていない。研究代表者とドイツ側研究分担者Lenzは,フェルミオンに対応するスピン系とゲージ場に対応する調和振動子が結合する簡単化した模型によって,クェンチ近似の意味とその成立条件を調べた。その結果,結合系の運動が基本自由度の運動に比べて遅いとする一種の断熱近似に相当することが示唆されたが,解析的,数値的分析をさらに進めて,近似の成立条件を明確にする計画である。 5.U_A(1)アノマリー ハミルトニアン形式でのQCDのU_A(1)アノマリーの記述およびその現象論的帰結の研究は,日本側研究分担者太田を中心に進められている。軸性ベクトル流の正則化が本質的であること,正則化にゲージ不変性を要請するだけでは不定性が残り,正しい結果が導けないことなどがわかったが,この不定性を解消する条件,での質量など現象との関係はまだ解明されていない。この研究はハドロン物理での基本的問題のひとつであり,今後も継続する計画である。 6.現象論的模型による分析 QCDについて得られた知見に基いて模型を構築し,現象の分析を進める研究は主として日本側のグループによって行われた。研究代表者のグループでは,中間子のスペクトルやカイラル相転移の記述に成功している南部・ジョナ-ラシニオ(NJL)模型に基く核子の研究を行った。3個のクォークによる相対論的ファデェフ方程式の束縛解として核子を記述し,その静的性質(電弱相互作用モーメント)を計算して,現実的な核子の模型として十分に通用することを示した。また,高エネルギーの準弾性散乱における始および終状態相互作用に対する核子の内部構造の反映を相対論的フォーク模型で調べている。日本側研究分担者太田は,QCDの色の数が大きい場合に対応するスカ-ム模型によるパイ中間子の光発生を大学院生と考察し,低エネルギー定理を導いた。研究協力者森松はQCD和則に基くハドロン間相互作用の分析を進めている。
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