研究分担者 |
HOKIN S. アルフベン研究所, 主任研究員
BRZOZOWSKI J アルフベン研究所, 主任研究員
ANTONI V. パドバ大学, 欧州原子力共同体, 主任研究員
BRUNSELL P. アルフベン研究所, 主任研究員
DRAKE J.R. アルフベン研究所, 主任研究員
小野 靖 東京大学, 大学院・工学系研究科, 助教授 (30214191)
桂井 誠 東京大学, 大学院・工学系研究科, 教授 (70011103)
遠山 潤志 東京大学, 大学院・理学系研究科, 教授 (50023718)
森川 惇二 東京大学, 大学院・工学系研究科, 助手 (70192375)
小川 雄一 東京大学, 大学院・工学系研究科, 助教授 (90144170)
井上 信幸 京都大学, エネルギー理工学研究所, 教授 (60023719)
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研究概要 |
実験室プラズマに限らず,太陽コロナや磁気圏プラズマなど,さまざまな乱流プラズマにおいて,大きなプラズマ揺動に伴うエネルギー散逸(プラズマ粒子の加熱)を経て,磁力線構造が自己組織化する現象が観測される.イオンの持つ流体的粘性が電磁流体力学(MHD)的揺動のエネルギー散逸において支配的であると仮定すると,磁場の捻れを表すヘリシティーの保存に関するWoltjerの定理が適用される.イオンの粘性散逸は,プラズマ内部の磁気エネルギーを減少させるが,ヘリシティーは保存される.結果としてプラズマの磁場配位は,ローレンツ力の働かない,無力磁場配位(force-free field;Taylor状態)へと緩和して行く.散逸されたエネルギーは,イオンの加熱を生じる.逆転磁場ピンチ(RFP)や極低q(ULQ)プラズマにおいては,プラズマ内部の磁場構造がTaylor状態にあることが実験的に示されており,磁場揺動の励起に相関したイオンの加熱現象も観測されている.しかし,いかなる機構によって,プラズマ中のエネルギー散逸においてイオン粘性散逸が卓越するのかは,実験的に未解決の問題であった.理論的には,プラズマ内部での急速な磁気再結合過程において,平行イオン粘性がMHD緩和過程におけるエネルギー散逸を支配していると予測される.本研究は,この理論的予測に実験的な検証を与え,プラズマ中の磁場構造の自己組織化現象に関して,揺動散逸の物理的機構についての理解を完成させた. 実験は東京大学・工学部のREPUTE-1およびAlfven研究所のEXTRAP-T2の2台のトーラス・プラズマ装置を用いて行なった.完全電離プラズマに大電流を流してプラズマの磁気乱流を起こし,イオンの加熱を観測した.イオン粘性加熱の微視的メカニズムを調べるため,RFP配位およびULQ配位プラズマの両方において,磁力線に関して異なる2方向のイオン温度を比較検討した.これは,理論的にイオンの平行粘性による平行方向の選択的な加熱機構が予測されるためである.実験結果は,以下のようにまとめられる. RFPおよびULQという大電流プラズマにおいては,一般的にプラズマの電子・イオン熱平衡時間は,そのエネルギー閉じ込め時間よりも長く,古典的な衝突を介しては,イオン温度が電子温度より高くなることはない.しかし,実験においては,イオン温度が電子温度と同程度あるいはそれ以上に加熱される現象が観測され,直接イオンを加熱する機構が存在することが示される. RFPプラズマにおいては,磁力線接線方向のイオン温度が磁力線垂直方向のイオン温度よりも高く,MHD揺動を介してのイオン粘性散逸モデルが妥当であることが実験的に確認されている.磁場揺動の大きさとイオン温度およびその非等方性の間に強い相関があることも観測されている.ULQプラズマにおいては,プラズマの乱流性がイオン温度の評価に与える影響について実験的に研究され,プラズマ内部の磁場揺動の激しいプラズマでは,熱化されていない乱流運動成分が,磁力線垂直方向のイオン温度に影響を与えていることが実験的に確認された. 本研究において実験を行なったRFPおよびULQプラズマの磁力線構造は,太陽コロナやジェットなどの宇宙・天体プラズマに多くみられる典型的な捻れの構造を持つ.この様な磁力線の捻れの構造は,プラズマ内部の余剰磁気エネルギーが主としてイオンの持つ流体的粘性によって散逸されるとき自己形成されることが理論的に示され,エネルギー散逸の結果としてイオンが加熱されることになる.本研究では,プラズマのイオン粘性加熱を磁場構造の自己組織化現象と密接に関連することが示された. 以上のように本研究は,プラズマの電磁的乱流に伴う構造形成と加熱について,理論的予測に実験的な検証を与え,揺動散逸の物理的機構についての理解を完成させたものと総括される.
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