研究分担者 |
DRIL S.I. ロシア連邦科学学士院, 地球化学研究所, 上級職
PEREPELOV A. ロシア連邦科学学士院, 地球化学研究所, 上級職
KUZMIN M ロシア連邦科学学士院, 地球化学研究所, 研究院(所長)
堀江 正治 ドイツ地球化学研究所, 客員教授 (90025320)
小椋 和子 東京都立大学, 理学部, 助教授 (20087117)
石渡 良志 東京都立大学, 理学部, 教授 (90087106)
豊田 和弘 北海道大学, 大学院・地球環境科学研究科, 助教授 (10207649)
猿渡 英之 名古屋大学, 工学部, 助手 (30221287)
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研究概要 |
世界最大で、最古といわれるバイカル湖湖底堆積物について地球化学的観点から古環境変動の解析を行うことが本研究の目的である。本研究グループは平成6年度〜平成7年度の2年間科学研究費の補助を受け、ロシア・地球化学研究所との共同研究を進めてきた。バイカル湖深層削計画(BDP)の予定では、1993年冬期掘削された100mコア試料(2本)に続き、1995年冬期300mコア試料が採取される予定であったが、天候および掘削機の整備等の問題のために採掘できず、300mコア試料は1996年冬期(現在)採掘作業が進められている。ゆえに、300mコア試料についての研究は平成8年度以降継続する予定である。 上記のような事情により、当初予定されていた300mコア試料が入手できなかったため、本年度は100mコア試料(BDP-93-1,BD-93-2)2本について更に解析を進めるとともに、平成7年8月バイカル湖およびその周辺の現地調査並びに平成8年3月300mコア試料採掘現場の調査と試料配分計画についての打ち合せを行なった。300mコア試料の採取が遅れた理由は、バイカル湖の500〜600m水深位置でボーリングを行なうために、冬期湖面の氷上に掘削機を設置する必要があり、掘削の期間が限られるためである。本研究の推進にあたっては、掘削作業の困難とともに、ロシア経済の崩壊に伴なう財源難、共同研究参加国の拠出金の問題など、多くの問題があることを痛感した。 堆積物に関する研究としては、原口,猿渡,豊田はICP(誘導結合プラズマ)発光分析法,ICP質量分析法,放射化分析法を用い、堆積物中無機元素の垂直分布測定,石渡と小椋は同様に有機成分,とくに炭素,窒素,リグニン等の垂直分布測定、並びに堆積物の年代測定を行なった。本年度はとくに平成6年秋に配布された100mコア試料(BDP-93-2)約230個(0.4m毎の堆積物試料)について、上記の測定を完了した。その成果として、無機元素の垂直分布測定からは、湖底堆積物100mの上層と下層、すなわち湖底から約50mの位置の上下で、多くの元素に濃度分布の差が見られた。このことは、有機成分分析の結果と併せて考えると、上層は生物起源堆積物由来であり、下層は陸源堆積物由来と推定されることを示すものである。ここで、生物起源堆積物とは湖が深く、その湖に棲む生物の影響を受けた堆積物であり、陸源堆積物とは湖が浅いか、陸地であったことを意味する。100mコア試料の年代は50〜100万年と考えられるので、この間にバイカル湖では地層または地殻変動が起ったことが考えられ、このことは今後他の測定項目の解析に対して極めて有用な知見となる。さらに、石渡らの有機成分分析では〔(窒素)/(炭素)〕比の垂直分布の変動が、地球における過去100万年間の気候変動に相関があることも見い出されつつある。古気候に関する研究は現在花粉分析や酸素同位体分析が主流であるが、堆積物中の有機成分分析から古気候解析で可能になれば、地球の古環境解析の新しい手法となることが期待される。この点、石渡らはバイカル湖周辺で採取した植物を用いて更に解析を進めており、近い将来その研究成果を発表予定である。地球化学的な研究課題として、地球、とくに地殻(表面15〜20km)の平均元素組成の決定がある。地殻の平均元素組成については、これまでいくつかの研究例があるが、バイカル湖のように大きな湖の湖底堆積物は広大な地域の地球化学的、地質学的、また生物学的な長期変動を反映いすることが期待される。そこで、原口らはバイカル湖堆積物の平均元素組成と従来報告されている地殻平均元素組成の比較を行ない、かなり強い相関があることを見い出した。ただし、ウラン,トリウム,鉛などはバイカル湖堆積物中に多く、周辺の地質環境を反映するものである。また、バイカル湖湖水中の金属元素濃度も行ない、堆積物組成との比較から湖水中の元素濃度は堆積物生成過程を大きく支配することも明らかとなった。
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