制がん性プロスタグランジンの化学的および生物学的研究

1995 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 06044095
• 研究機関: 名古屋大学
• 研究代表者: 野依 良治 名古屋大学, 大学院・理学研究科, 教授 (50022554)
• 研究分担者: AKIMARU Kuni テキサス大学, MDアンダーソンがんセンター, 博士研究員 ; ISHIKAWA Tos テキサス大学, MDアンダーソンがんセンター, 助教授 ; 北村 雅人 名古屋大学, 大学院・理学研究科, 助教授 (50169885) ; 鈴木 正昭 岐阜大学, 工学部, 教授 (90093046)
• キーワード: 抗腫瘍性プロスタグランジン / 薬剤耐性 / グルタチオン / GS-Xポンプ / シスプラチン耐性HL-60細胞 / 分子プローブ / 光親和性標識

研究概要

1.化学的研究(国内グループ):独自に創出した3成分連結PG合成法の活用により、強い抗腫瘍活性を示すPG類の効率合成法を確立した。さらに、合成したPG類が、細胞内チオールで、腫瘍細胞の薬剤耐性に関与していることがあきらかにされたグルタチオンと容易かつ可逆的に抱合体を形成することを確認した。本結果は、腫瘍細胞のPG耐性が、グルタチオンとPGの抱合反応とそれに続く抱合体のATP依存性グルタチオンS-コンジュゲート輸送ポンプ(GS-Xポンプ)による細胞外排出によるものであることを強く示唆している。このようなGS-Xポンプとの相互作用を調べるためのPG-グルタチオン抱合体(放射性元素ラベル体を含む)の合成に成功した。現在、GS-Xポンプタンパク質捕獲のための光親和性標識用プローブの合成を進めると共に、PGの制がん分子機構の解明のための分子プローブの設計および合成に着手している。
2.生物学的研究(米国グループ):上記国内グループが合成したPG-グルタチオン抱合体を用い、GS-Xポンプを過剰に発現しているシスプラチン耐性HL-60細胞から調製した形質膜ベシクルでのATP依存性ロイコトリエンC_4輸送阻害実験を行い、抱合体とGS-Xポンプとの間に強い相互作用があることを確認した。さらに、放射ラベルした抱合体を用いたinside-out膜ベシクルでの細胞内取り込み実験を行い、PG-グルタチオン抱合体がATP依存的に膜内に取り込まれ、GS-Xポンプの基質として作用を受けることを実証した。以上の結果から、腫瘍細胞のPG耐性分子機構が解明された。今後、上記国内グループが開発した分子プローブを用い、GS-Xポンプタンパク質の捕獲と分子構造の解明、さらにはPGの細胞増殖抑制作用機構の解明を行う予定である。
以上のように研究は所期の目的を達成し、次年度に向かって十分な準備体制にある。

研究成果

• [文献書誌] T. Ishikawa: "How Does the MRP/GS-XPump Export Doxorubicin" J. Natl. Cancer Inst.87. 1639-1640 (1995)
• [文献書誌] K. Akimaru: "Induction of MRP/GS-XPump and Cellular Resistance to Anticancer Prostaglandins" Cytotechnology. (in press).
• [文献書誌] K. Akimaru: "Cell Growth Inhibition by Antitumor Prostaglandin and its Modulation by MRP/GS-XPump" Eicosanoids and Other Bioactive Lipids in Cancer, Inflammation, and Radiation Injuly,. (in press).
• [文献書誌] M. Suzuki: "(15R)-16-m-Toly1-17, 18, 19, 20-tetranorisocarbacyclin : A Stable Ligand with High Binding Affinity and Specificity for a Prostacyclin Receptor in the Central Nervous System" Angew. Chem. Int. Ed. Engl.(in press).
• [文献書誌] M. Kitamura: "Self and Nonself Recognition of Asymmetric Catalysts. Nonlinear Effects in the Amino Alcohol-Promoted Enantioselective Addition of Dialkylzincs to Aldehydes" J. Am. Chem. Soc.117. 4832-4842 (1995)
• [文献書誌] T. Ishikawa: "GS-Xpump is Functionally Overexressed in Cisplatin-Resistant Human Leukemia HL-60 Cells and Downregulated by Cell Differentiation" J. Bio. Chem.269. 9085-29093 (1994)
• [文献書誌] T. Ishikawa: "Glutathione and ATP-dependent Export of Anticancer Druge. In ″Drug Transport in Antimicrobial and Anticancer Drugs, ″ed by N. H. Georgopapadakou" Marcel Dekker, New York, in press
• [文献書誌] R. Noyori: "Asymmetric Catalysis in Organic Synthesis" John Wiley & Sons, 378 (1994)
• [文献書誌] M.Suzuki: "Organocopper Reagents" Oxford University Press, 362 (1994)