逆解析による地盤調査の総合システムの開発

1996 年度 研究成果報告書概要

• 研究課題/領域番号: 06044096
• 研究種目: 国際学術研究
• 配分区分: 補助金
• 応募区分: 共同研究
• 研究機関: 名古屋大学
• 研究代表者: 市川 康明 名古屋大学, 工学部, 助教授 (30126833)
• 研究分担者: 清木 隆文 名古屋大学, 工学部, 助手 (10262875) ; 呉 旭 名古屋大学, 工学部, 助手 (00262858) ; CIVIDANI Ann ミラノ工科大学, 工学部, 助教授 ; GIODA Gianca ミラノ工科大学, 工学部, 教授 ; SWOBODA Gunt インスブルック大学, 工学部, 教授 ; CIVIDINI Annamaria Department of Structural Engineering, Technical University of Milan, Italy Assoc ; WU Xu Department of Mechano-Informatics and Systems, Nagoya University, Japan Research
• 研究期間 (年度): 1994 – 1996
• キーワード: 地盤工学 / 逆解析 / 非均質問題 / 双対境界制御法

研究概要

自然によって形成された土や岩などの非均質あるいは非線形性の強い「地盤材料」を対象とする地盤工学の諸問題は地層構造やその特性を正確に知り難い故に、時として恣意的な力学モデルに帰せしめられる。現実の地盤性状を反映しないこれらの解析と、それに続く設計を施工中に修正すべく、観測的方法(observational methods)あるいは同定問題(identification problem)・逆解析(inverse analysis)の概念が提案されて久しいが、微分方程式に支配される境界値問題として同定問題を正確に記述した手法は未だ完成されていなかった。
1990年以来、研究代表者は材料定数を決定するパラメーター同定問題が、領域境界上における例えば変位と力の双対性を利用した境界制御問題に帰すことができることを提案してきた(双対境界制御法)。この方法では荷重あるいは変位の観測境界条件は、領域+境界上で定義された応力(荷重)・変位を該当境界上の観測条件に制限する射影(projection)条件として導入される。この新しい手法によって従来の逆定式化法や直接定式化法では解き得なかった問題、例えば非均質場における弾性定数とポアソン比を同時に同定する問題が極めて効率的に解けることが示された。
このように新しい方法論はしかしながら、現実の工学問題に適用されて初めてその価値が明らかになる。本研究では、現実の地盤工学問題に適用するために、三次元が問題に対応するシステムを開発・整備し、併せて、同定されるパラメータのデータ依存性(感度解析)等の従来不十分であった理論的側面についても検討を行った。
本研究の基礎理論が研究代表者・市川を中心として1990年以来、開発が進められてきたことは上述のとおりである。当プロジェクトにおいても双対境界制御手法の理論的側面の開発および全体作業の調整は名古屋大学(市川康明・呉旭・清木隆文)が行った。オーストリア・インスブルック大学のG.Swobodaは上記の基礎理論に立脚して、インスブルック大学に所有する計算機システム(ワークステーション)の上に総合システムを開発した。なお、名古屋大学・清木隆文はインスブルック大学で開発したシステムを、名古屋大学で所有する計算機システム(パーソナル・コンピュータ)に移植した。イタリア・ミラノ工科大学のG.Gioda,A.Cividiniは、逆解析・同定問題における確率的理論の開発(双対制御を導入したカルマンフィルター理論)作業と併せて、インスブルック大学・Swobodaのシステムに適合する観測データを提供し、同システムの有効性をチェックした。
本プロジェクトで得られた具体的成果は以下のとおりである。
・三次元弾性問題に対するプログラムをインスブルック大学のワークステーション上で開発し、入出力機能を整備した。なお、当初は二次元問題のシステム開発を予定していたので、予定以上の成果であった。三次元粘弾性問題については、インスブルック大学で所有するワークステーションの処理能力を超えるので、別の理論(ラプラス空間における同定問題)によるシステム開発を検討している段階である。
・開発したプログラムを名古屋大学のパーソナル・コンピュータ上に移植した。
・弾性問題と粘弾性問題に適用されていた境界射影制御法の理論を拡張し、岩盤中に存在する節理等の分布不連続面群を同定する損傷力学問題、弾塑性パラメータを同定する弾塑性問題、弾性定数と減衰定数を同時に同定する波動問題、弾性定数と浸透計数および熱伝導率を同定する応力・浸透・熟練成問題に適用し、二次元問題を対象にしたプログラムを開発した。
・カルマンフィルター双対制御理論による損傷力学問題、応力・浸透・熟練成問題に適用し、二次元問題を対象にしたプログラムを開発した。
・室内モデル実験の結果と解析結果を比較検討した。ただし、実験材料にはセメントモルタルを用いたので、データのばらつきが大きく、結果の解釈に苦労した。
なお、本プロジェクトの発足した平成6年12月には約30名の参加者による逆解析の国際ワークショップを名古屋大学で開催し、地盤工学における逆解析の現状と未来について総括討議を行い好評を得た。参加者は上記研究担当者以外に京都大学・佐藤忠信教授、同・村上章助教授、信州大学・大上俊之助教授、神戸大学・芥川真一助教授他であった。また、本プロジェクトに関して国際的な反響を呼び、ポーランド政府支援によるグダニスク工科大学・名古屋大学共同研究プロジェクト(逆解析をベースにした地盤材料の構成則に対するエキスパート・システム開発)が平成8年度に発足している。

研究成果

• [文献書誌] Ichikawa,Y.and Ohkami,T.: "A Generalized Inverse Analysis Identifying Viscoelastic Material Parameter" Proc.6th Int.Conf.Mechanical Behaviour of Materials. 705-710 (1991)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] Ichikawa,Y.and Ohkami,T.: "A Parameter Identification Procedure as a Dual Boundary Control Problem for Linear Elastic Materials" Soils and Found.32. 35-44 (1992)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] Ichikawa,Y.and Ohkami,T.: "Dual Boundary Control Procedures for Identifying Material Parameters" Proc.Int.Symp.Assesment and Prev.of Failure Phen.in Rock Mech.895-901 (1992)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] Ohkami,T.and Ichikawa,Y.: "A Parameter Identification Procedure As a Dual Boundary Control Problem for Viscoelastic Materials" Int.J.Numer.Analy.Meth.Geomech.(accepted). (1997)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] 呉 旭,市川康明: "カルマンフィルター有限要素法による岩盤損傷力学パラメータの逆解析" 土木学会論文集. 523/III-32. 1-8 (1995)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] Swoboda,G.,Ichikawa,Y.,Qinxi Dong and Mostafa Zaki: "Back Analysis of Large Geotechnical Models" Int.J.Numer.Analy.Meth.Geomech.(accepted). (1997)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] 市川康明: "地盤力学における有限要素法入門" 日科技連, 177 (1990)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] Ichikawa,Y.: "Proc.Int.Workshop" Inverse Analysis in Geomechanics '94, 182 (1994)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] Ichikawa, Y.and Ohkami, T.: "A Generalized Inverse Analysis Identifying Viscoelastic Material Parameter" Proc.6th Int.Conf.Mechanical Behavior of Materials. 705-710 (1991)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] Ichikawa, Y.and Ohkami, T.: "A Parameter Identification Procedure as a Dual Boundary Control Problem for Linear Elastic Materials" Soils and Found.32. 35-44 (1992)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] Ichikawa, Y.and Ohkami, T.: "Dual Boundary Control Procedures for Identifying Material Parameters" Proc.Int.Symp.Assesment and Prev.of Failure Phen.in Rock Mech.895-901 (1992)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] Ohkami, T.and Ichikawa, Y.: "A Parameter identification Procedure As a Dual Boundary Control Problem for Viscoelastic Materials" Int.J.Numer.Analy.Meth.Geomech. (accepted). (1997)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] Wu, X., and ichikawa, Y.: "Identification of damage Parameters for Jointed Rock Mass Based on the Kalman Filter Finite Element Method" Proc.JSCE. 523/III-32. 1-8 (1995)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] Swoboa, G., Ichikawa, Y., Qinxi dong and Mostafa Zaki: "Back Analysis of Large Geotechnical Models" Int.J.Numer.Analy.Meth.Geomech.(accepted). (1997)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] Ichikawa, Y.: Nikkagiren. An introduction of Finite Element Method for Geomechanics, 1-177 (1990)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] Ichikawa, Y.: Proc.Int.Workshop. Inverse Analysis in Geomechanics '94, 1-182 (1994)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より