研究課題
国際学術研究
カルシウム結合蛋白質は生化学、分子生物学的研究から非常に多くの分子種の存在が報告されている。カルシウム結合蛋白質はカルシウム結合部位の構造から1)EF-hand、2)エンドネキシンフォールド、3)C2-domainの大きく3つに分類される。本国際学術研究では、この中のEF-hand構造を二つもつS100蛋白ファミリーのカルサイクリンと、そのリガンドであり、かつエンドネキシンフォールドをもつカルシウム・リン脂質結合蛋白質のアネキシンXIに着目し、これらの高次構造とその相互作用を核磁気共鳴法(以下NMR法)を用いて解析し、これらの生体内機能の解明に迫るものである。S100カルシウム結合蛋白質はカルシウムによる細胞内情報伝達機構のなかでエフェクターとして機能している。S100蛋白の多くは二単量体を形成して生体内で機能していることが示唆されてきたが、その二量体形成の機序は明らかではなかった。本研究ではS100蛋白のカルサイクリンの3次元構造をNMR法により解析した。その結果、カルサイクリンはカルシウム結合蛋白質の中では特異な左右対照のホモダイマー構造をとることが示された。この二量体は他の蛋白によく見られるSS結合によるものではなく、疎水性残基同士の相互作用により形成されていた。一方、カルビンディンD_<9k>はカルサイクリンと同じくS100蛋白に属するが、N末端、C末端のアミノ酸がそれぞれ一部欠損しており、C末端のアミノ酸の欠損が二量体形成に重要なヘリックスIVの構造に変化を与え、そのため二量体を形成しえず、単量体としてのみ存在していることが示された。本研究で示されたカルサイクリンの二量体構造は今後の他のカルシウム結合蛋白質の高次構造研究に多大な影響を与えるものと思われる。カルサイクリンのリガンドであるアネキシンXIはアネキシンファミリーの中で最長の制御ドメインをもち、細胞内で核局在を示し、さらにリン酸化によりその局在を変化させるなどアネキシンファミリーの中で特異な性質をもつ。本研究ではこれらの性質がアネキシンXIに特異な制御ドメインに依存していると考え、アネキシンXIの制御ドメインの解析を分子生物学的手法を用いて行った。その結果、アネキシンXIはこの制御ドメインを核移行シグナルとして核に局在すること、アネキシンXIの核局在は全ての細胞に普遍的なものではなく、細胞種や細胞の分化、増殖期により異なることが示された。アネキシンXIにはこの制御ドメインのスプライシングによる2種類のアイソフォーム(annexin XI-A,B)が存在する。アネキシンXIのアイソフォームを哺乳類細胞、昆虫細胞に発現させ細胞内分布を検討した結果、annexin XI-Aは核、細胞質、annexin XI-Bは核、細胞膜に分布し、細胞内分布が異なることが示された。カルサイクリン-アネキシンXI複合体の高次構造を解明するためには、まずアネキシンXIのカルサイクリン結合部位を正確に同定することが重要である。そこで、種々のアネキシンXIのアミノ酸配列とGST蛋白との融合蛋白を分子生物学的手法を用いて作成し、カルサイクリン分子との相互作用を検討した。その結果、カルサイクリンはアネキシンXIのGln49からThr62の領域に結合することが示された。この領域はα-ヘリックス構造をとり、この領域内の疎水性残基とカルサイクリンの疎水性残基が相互作用を起こすことにより、アネキシンXIがカルサイクリンと結合することが示された。この結合様式は最近他のアネキシンとS100蛋白でも報告され、アネキシン-S100の相互作用に普遍的な機構であることが示唆された。また、このカルサイクリン結合部位を含む合成ペプチドを作成し、このペプチドがアネキシンXIとカルサイクリンの相互作用を阻害すること、すなわちカルサイクリンに結合することを示した。現在、カルサイクリンにこの合成ペプチドを反応させたときのカルサイクリン分子の高次構造をNMR法を用いて解析し、本研究の最終目的であるカルサイクリン-アネキシンXI複合体の高次構造を解析中である。本研究で得られた成果はカルシウム結合蛋白の高次構造研究ばかりでなく、さまざまな蛋白-蛋白相互作用の研究に寄与するものである。
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