研究課題/領域番号 |
06044138
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研究種目 |
国際学術研究
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 共同研究 |
研究機関 | 大阪大学 (1995-1996) 早稲田大学 (1994) |
研究代表者 |
吉村 作治 早稲田大学, 人間科学部, 助教授 (80201052)
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研究分担者 |
長谷川 奏 早稲田大学, 古代エジプト調査室, 嘱託
近藤 二郎 早稲田大学, 古代エジプト調査室, 嘱託
西本 真一 早稲田大学, 理工学部, 助教授 (10198517)
中川 武 早稲田大学, 理工学部, 教授 (30063770)
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研究期間 (年度) |
1994 – 1996
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キーワード | エジプト / アブ・シール南 / 北サッカラ / ネクロポリス / 新王国時代 / ラメセス2世 / 移籍の緊急保全 / カエムワセト王子 |
研究概要 |
平成3年度から3年間『エジプト・アラブ共和国 アブ・シール地区におけるピラミッドおよび周辺遺跡の調査』(課題番号03041079)の課題名で科学研究費補助金(国際学術研究)の交付を受けアブ・シール南丘陵頂部において発掘調査が実施された。この3年間に及ぶ発掘調査の結果、新王国第19王朝時代のラメセス2世の第4王子であるカエムワセトに関連する重要な遺構が検出された。カエムワセト王子は、内政を司ったばかりでなく、メンフィスのネクロポリスにおいて古王国時代のピラミッドなどの古代遺跡の修復などを実施した人物として知られている。アブ・シール南丘陵頂部で新たに発掘された遺跡は予想外に規模が大きく、未だに完全には終了していない現状である。また当該遺跡は独立丘陵の頂部に位置しているため、風雨等の影響により崩壊が懸念される状態であったため平成6年度に急遽、遺跡の保全と出土遺物の整理研究を目的とする調査隊を編成し現地に派遣することとなった。今回の派遣期間は比較的短期間であったが、丘陵頂部の遺構上部に保護のためかけられたビニールシートの点検及び補修、丘陵頂部に残されている大型石材の観察調査、そして出土遺物の整理作業等が実施された。アブ・シール南の丘陵頂部遺跡出土の遺物の大部分は、サッカラに建設された遺物倉庫に収納保管してある。そこで出土遺物の整理研究は、主としてサッカラの遺物倉庫内部で実施された。丘陵頂部では、遺跡の保全を目的としてガード態勢の点検整備も併せて実施した。当初、心配された風雨等による遺跡の崩壊あるいは崩落は幸いにして深刻な状況にまでは至らず、砂袋を使用した軟弱地盤の補強処理の点検作業を実施した。強烈な風の影響からか、石材を保護しているビニール・シートが広範に亀裂が入り破損した箇所が発見されたため、応急修理を施し次回の調査に備えた。 出土遺物の整理作業は、サッカラ地区にある遺物収納倉庫で実施された。主として石炭岩の表面に記されたヒエラティク・インスクリプションの細部観察とその解読のための試み、土器片の収納点検と細部観察、丘陵頂部から出土したレリーフ、ステラの観察研究などを中心として行われた。発見当初から注目を浴びていた出土ヒエラティク・インスクリプションは、日付、作業班別(右班と左班)、役職、人名などを記しているものとしては非常に特異で貴重な資料を形成している。黒色インクで記されたヒエラティクが、かなり乱雑なタッチであったため、解読作業が懸念されていたが、その後の検討により、その大部分の資料が解読可能であるとの見通しを得ることができた。今後、解読された碑文につき詳細に検討を行えば新王国第19王朝時代のラメセス2世あるいはカエムワセト王子関連の研究にとって極めて重要なものとなろう。丘陵頂部に置いてある石材についても、詳細な写真撮影を実施し、幾つかのインスクリプションの解読が可能となった。また、これらのインスクリプションは、黒色インクで記されているため、発掘後、風雨の影響により、インクが、かすれて褪色してしまい解読不可能な状態となるものがでており、出土した際のインクの保護、写真撮影などの記録の問題が、極めて大切であると痛感した。丘陵頂部から出土した2つの第18王朝時代(トトメス4世時代)に属する小型ステラは、アブ・シール南丘陵頂部の遺構の構造、形成などの点で極めて重要な遺物である。今回、これらのステラを詳細に検討したところ、トトメス4世のカルトゥーシュを記したヌビアの民を打ちすえる図柄がモチーフとしてレリーフで施されているものと、アジアに起源を有する女神(アナト女神か?)をレリーフしたものの2点であるが、アジア系の神が描かれるものは、第19王朝時代以降に多く出現するものであるが、第18王朝時代のものでは極めて珍しいものである。また、トトメス4世の王名を記しステラが、この地から出土した事実は、アブ・シール南の丘陵地帯の歴史的背景を考慮する際に、重要な問題を提起するものとなる。今後、発掘を継続していく際に、ラメセス2世時代以前の新王国時代のサッカラ地域のネクロポリス(所謂メンフィス・ネクロポリス)を考察していく点では、重要な遺物のひとつである。石材、木製品や土器の整理を実施するなかで、遺物の保存処理についても検討が加えられた。
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