カシンベック病の病因の解明

1995 年度 研究成果報告書概要

• 研究課題/領域番号: 06044145
• 研究種目: 国際学術研究
• 配分区分: 補助金
• 応募区分: 共同研究
• 研究機関: 大阪大学
• 研究代表者: 鈴木 不二男 大阪大学, 歯学部, 教授 (40028717)
• 研究分担者: 張 矢遠 西安医科大学, 骨病研究所, 教授 ; 顔 うえい群 白求恩医科大学, 地方病研究所, 教授 ; 李 廣生 白求恩医科大学, 地方病研究所, 教授 ; 揚 同書 白求恩医科大学, 地方病研究所, 教授 ; 岩田 久 名古屋大学, 医学部, 教授 (90023796) ; 藤井 克之 東京慈恵会医科大学, 助教授 (10112856) ; 加藤 幸夫 広島大学, 歯学部, 教授 (10112062) ; ZHANG Shi yuan Xian Medcial University Professor ; YAN Wei qun Norman Bethune Medical University Professor ; LI G.s. Norman Bethune Medical University Professor ; YANG Tong shu Norman Bethune Medical University Professor
• 研究期間 (年度): 1994 – 1995
• キーワード: Kaschin-Beck病 / 軟骨代謝異常症 / 軟骨プロテオグリカン / 関節疾患 / 軟骨細胞

研究概要

Kaschin-Beck病(KBD)は、中華民国の東北地方から西安近郊の農村部にかけてのみ多発する軟骨代謝異常症である。この地方では、本症の患者数が200万人にも達すると言われているが、未だにその原因が解明されていない。代表研究者(鈴木不二男)らは、白求恩医科大学地方病研究所(吉林省長春市)の揚 同書教授(生化学)らとともにこの病因を解明するべく国際共同研究(平成3,4年度)を実施したが、より新たな観点から本共同研究を継続して実施するべく計画を立てた。そこで今回は、同研究所の揚教授のほか、李 広生教授(病理学)、顔 群教授(生化学)および西安医科大学の張 矢遠教授(生化学)、日本側からは、岩田 久教授(整形外科学)にも参加を求めて、代表研究者らが確立した軟骨細胞培養系を利用する細胞レベルでのKBDモデル系を利用してKBDの病因解明を試みた。まず、代表研究者が白求恩医科大学地方病研究所および華西医科大学に赴き、軟骨代謝研究の最近の動向を紹介するとともに、共同研究の打ち合わせ、および病院を視察した。さらに分担研究者に加わって頂いた岩田 久教授にも白求恩医科大学地方病研究所、北京積水潭医院、および天津中医学院にてKBDを含む変形性関節症の関節破壊の機構について情報交換および討論を行うとともにKBD患者の実態調査を行った。次いで、揚 同書教授を大阪大学および東京慈恵会医科大学に招き、情報交換、共同研究のまとめを行った。
以前の共同研究により軟骨細胞レベルでのKBDモデル系が確立されたので、今回は病区から採取した患者血清のウサギ肋軟骨細胞培養系に対する影響を検討した。その結果、患者血清を添加すると軟骨基質プロテオグリカンの遊離・分解が促進されること、とくにその促進は肥大軟骨細胞層で著明であることが分かった。また患者血清を添加すると培養液中にGelatinase活性が検出され、さらに培養を続けると正常血清を添加した系では、Matrix metallo proteinase-2(MMP-2)しか認められなかったが、患者血清を添加するとMMP-2のほかにMMP-9圧政も出現した。したがってKBD患者血清中にはMMP-9の産生を促進するサイトカインが存在することが明らかとなった。
一方、中国側分担研究者も中国科学院昆明動物研究所より供与された若齢サルを用いて河南省のKBD病区より採取した飲料水および穀物を投与して18ケ月間飼育をしたところ、ヒトのKBDに類似の症状を呈することを明らかにした。なお河南省洛陽市の非KBD病区より採取した飲料水および穀物により飼育した若齢サルを対照とした。実験群は、次の4グループ(各グループ4頭ずつ)分けた。
1)対照群;2)病区穀物投与群;3)病区飲料水投与群;4)病区穀物+病区飲料水+Se投与群
軟骨標品は大腿骨頭、大腿関節、脛骨板、および肋軟骨を用いて、グリコサミノグリカン含量、^<35>SO_4^<2->のグリコサミノグリカンへの取り込み、およびプロテオグリカン・モノマーの分子サイズを比較検討した。その結果、KBDサルの各種軟骨組織のグリコサミノグリカン含量および^<35>SO_4^<2->のグリコサミノグリカンへの取り込みは、いずれも対照サルの値よりも有意に低値を示した。さらにプロテオグリカン・モノマーの分子サイズもSepharose CL-2B(1.0X80cm)カラムによる分析によりKBDサルの軟骨の方が小さくなっていた。またKBD様の症状を呈した群にSeを添加して飼育した群では、上記のすべての指標が改善の傾向を示した。したがって以上の結果は、従来から提唱されていたKBD発症に関するSe欠乏説を支持するものである。しかし、ウサギ関節軟骨細胞および成長軟骨細胞培養系の増殖およびプロテオグリカン合成に対しては、Seは何ら影響を与えないし、ヒトKBDにおいてもSeだけでは説明ができない症例もあるので、単純に結論を下すことはできない。今後一層の検討が必要である。

研究成果

• [文献書誌] 顔 うえい群、宇 荊、中村茂夫、候 立中、揚 同書、鈴木不二男、張 矢遠、加藤幸夫: "大骨節病患者血清対培養軟骨細胞蛋白多糖代謝的影響" 中国地方病学雑誌. 13. 323-325 (1994)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] 顔 うえい群、揚 同書、候 立中、鈴木不二男、加藤幸夫: "伴刀豆蛋白A促進培養的静止軟骨細胞分化" 実験生物学報. 27. 429-439 (1994)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] W.Q.Yan,M.G.Tong,T.S.Yang,L.Z.Hou,F.Suzuki,A.Shimazu,Y.Kato: "Reorganization of isolated chondrocytes into growth-plate like tissues in pelleted cultures" J.Bone Miner.Metab.13. 77-80 (1995)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] W.Q.Yan,S.Nakamura,T.S.Yang,L.Z.Hou,O.L.Zhou,S.Y.Zhang,F.Suzuki,Y.Kato: "Sera of patients with Kaschin-Beck disease stimulate degradation of cartilage proteoglycans" J.Bone Miner.Metab.(刊行予定). (1996)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より