研究課題
国際学術研究
1.高等脊椎動物骨格筋興奮・収縮連関においては、細胞膜興奮に伴う脱分極が直接細胞内Ca^<2+>放出をトリガする(Depolarisation-induced Ca^<2+>-release : DICR機構)。一方、無脊椎動物横紋筋興奮・収縮連関においては外液中のCa^<2+>の細胞内への流入が必須である。本国際共同研究においては、第一段階として細胞生理的手法に系統発生学的アプローチを加え、動物進化のどの過程で興奮・収縮連関機構が質的に異なったのか、その進化点を特定し、進化に伴い新たに現れた特性を解明することにあった。その結果、進化は頭索類と無顎類の間で起こり、進化に伴い、T-管膜における固定電荷移動(Intramembrane Charge Movement ; IMCM)の中でDihydropyridine (DHP)誘導体であるNifedipineで特異的に阻害される成分Nifedipine-Sesinsitive Charge Movement (Qnf)が発現した事を示した。本年度は先ず、DICR機構に関して我々が提唱した仮説、「細胞脱分極信号を小胞体(SR)に伝えCa^<2+>遊離をトリガする機構の実体は、Qnfである」の検証を行った。Ca^<2+>蛍光剤を用いて細胞内Ca^<2+>濃度変化を実時間計測するための蛍光励起・測光装置を作成し既存のNikon TMD倒立顕微鏡に取り付け、単離骨格筋細胞からのIMCMとCa^<2+>シグナリングの同時測定を行った。その結果我々の仮説は証明された。すなわち、動物進化において無顎類以上の脊椎動物の骨格筋細胞はQnfを有し、細胞内Ca^<2+>放出をトリガし、一方、頭索類以下の無脊椎動物はQnfを持たず筋収縮にはCa^<2+>の細胞内への流入を必須とすることが、本国際共同研究を通じて明らかになった。2.脊椎動物、無脊椎動物ともに、骨格筋(横紋筋)興奮・収縮に与る細胞膜内の物質はDHP-受容体である。しかし、両者で膜内信号伝達機構が質的に異なる事は、頭索類から頭索類に至る進化過程でDHP-受容体の分子進化が起こり脊椎動物型の興奮・収縮連関機構を獲得した事を強く示唆する。我々は進化点前後に位置する動物種のDHP-受容体の構造を調べ比較する事によって脊椎動物型興奮・収縮連関機構の構造・機能相関を明らかにすることを試みた。これまで無顎類Lamprey(スナヤツメ)体側筋DHP-受容体のクローニングに成功した。頭索類Amphioxus(ナメクジウオ)については現在解析中である。3.心筋興奮・収縮連関においても細胞膜内の信号伝達はDHP-受容体による。心筋収縮もCa^<2+>の細胞内への流入を必須すると考えられていた。しかしごく僅かながらQnfを有する。原索動物Ciona(ユ-レイボヤ)心筋標本を用いてCa^<2+>の流入の必須生を検証した。外液からCa^<2+>を完全に取り除いた後も、低濃度のCaffeine、あるいはSCN^-存在下では電気刺激にたいする収縮応答が認められた。このことは心筋にも僅かながらDICR機構が存在する事を示す。4.無脊椎動物横紋筋はQnf、DICR機構を持たないが、無脊椎動物であるザリガニ神経裁縫でQnfを検出した。このことは、神経にDICRが存在する可能性を示唆し、かつその発現は骨格筋よりも早い可能性を示唆する。5.原索動物Doriolum(ウミタル)横紋筋細胞はT-管もSRも持たない。SRCa^<2+>チャネルモジュレーターであるRyanodine、Caffeineは興奮・収縮連関に何の影響も与えなかった。したがって収縮はCa^<2+>流入にのみによる。他の無脊椎動物横紋筋はSRを有し、Caffeine収縮も認められるが通常の興奮・収縮連関においては(計算からも)SRからのCa^<2+>放出は必要なく、Ca^<2+>スパイクに伴い流入したCa^<2+>で十分であろうと考えられる。これらにおけるSRの機能はむしろ細胞内の余剰のCa^<2+>の取込にあり、心筋、放出が生理的に重用になったのはこれもSRのCa^<2+>チャネルの分子進化によるものと考えられる。今後の研究課題である。本国際共同研究においては、研究目的の大部分は達成できた。更に、生理機構の分子構造・機能発現機構の解明のための系統発生学的アプローチの有用性を示した。本研究に限っても、細胞内Ca^<2+>制御機構の分子系統という新たな魅力的な研究課題が派生し、継続的な国際共同研究に育った。スポンサーシップに感謝する。
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