研究分担者 |
WAISMAN Davi カルガリ大学, 医学部, 教授
WANG Jerry H カルガリ大学, 医学部, 教授
徳田 雅明 香川医科大学, 医学部, 助教授 (10163974)
板野 俊文 香川医科大学, 医学部, 助教授 (60145042)
松井 秀樹 岡山大学, 医学部, 教授 (30157234)
中原 壽喜太 香川医科大学, 医学部, 教授 (70033024)
中野 節 香川医科大学, 医学部, 教授 (20227862)
洲脇 寛 香川医科大学, 医学部, 教授 (10033367)
小西 良士 香川医科大学, 医学部, 客員教授
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研究概要 |
本研究の研究は、てんかんとアルツハイマー病態におけるカルモジュリン依存性キナーゼおよびサイクリン依存性リン酸化酵素5(Cdk5)に関する研究を行った。研究結果を総括すると以下のようになる。 (1)神経細胞の可塑性のモデルとしてラット扁桃核の電気刺激により作成したキンドリングモデルラットを用いて実験を行った。ラットの大脳及び小脳を摘出し、免疫組織染色、Western blot解析、Nortern blot解析及びin situ hybridizationを行った。 (2)カルモジュリン依存性キナーゼ(CaM-kinase)ではI,II,IVにつきその神経細胞内の局在と発現量の変化を調べた。CaM-kinase IIについてはすでに他の系において神経の可塑性に関連して重要な役割を果たしていることが報告されているが、今回はそれに加えてCaM-kinase IとIVについてその関与の可能性の有無を解析した。CaM-kinase I及びIVともキンドリングを開始する前の大脳及び小脳でそれぞれ確認されたが、キンドリングが形成されるにつれて海馬や扁桃核において染色性が増すとともに、Western blot解析にても増量が確認された。また小脳においてほとんど変化が認められなかった。 (3)サイクリン依存性リン酸化酵素5(Cdk5)に関しても同様にキンドリングの系でいかなる動態変化を示すかを解析した。その結果Cdk5はキンドリングのステージの中で最もシナプス形成の盛んに起こっているとされるステージ3においてその活性が最も高いことが判明した。この活性は制御はCdk5そのものの発現量の変化によるのではなく、むしろCdk5の脳に特異的に存在するアクティベータ-であるp53の発現量により調節されていることが判明した。また同時にCdk5とp35が神経細胞内でその存在位置を変えることも明らかになり、ステージ3においては両者が神経細胞体(soma)に存在して高い活性を持つことが判った。 (4)ラット脳やウシ脳からタウキナーゼを精製する試みも行ったが、完全精製するまでには至っておらず、既知のキナーゼとの比較検討はできなかった。 (5)Cdk5/p35はキナーゼ活性を持ちタウ蛋白質をリン酸化する。前述の(3)の系において非リン酸化型タウとリン酸化型タウとを識別する2種の抗体を用いてWestern blot解析を行った。その結果、Cdk5が最も高い活性を持つステージ3においてリン酸化型タウが最も多く存在することが判明した。一方非リン酸化型タウはステージ1、2に多く、またステージ3で最小となり、ステージ4、5になるともとのレベルに復することが示された。このことからCdk5/p35がシナプス形成時にタウをリン酸化しその形態変化に関与している可能性が高いことが示された。 (6)ヒトのアルツハイマー病の剖検脳より切片を作成し、Cdk5/p35とリン酸化タウについて免疫染色法にて解析したところ、アルツハイマー病特有の老人斑において両者の高い発現が認められた。即ちアルツハイマー病態においてCdk5/p35がタウの過剰リン酸化に関与し、その他の因子と合わさって老人斑を形成していることが示唆された。 (7)キンドリングあるいはアルツハイマー病において、CaM-kinase I及びIVがタウもしくは他の蛋白質のリン酸化に関与しているかどうかについては、Cdk5/p35に用いたのと同じ手法にて現在解析中である。 (1)〜(7)の結果は、シナプス形成即ち神経の可塑性を伴う神経疾患においてカルモジュリン依存性キナーゼI,II,IVやサイクリン依存性リン酸化酵素5によるリン酸化が関与しており、基質となる蛋白質のリン酸化及び脱リン酸化を通してこれらの機能が制御されていることを示した。
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