研究概要 |
本共同研究において、CD45エクソン6欠損マウス(以下、CD45-/-マウス)の白血球の発生・分化・機能を詳細に解析した。白血球の中でも、とくに、(1)T細胞、(2)B細胞、(3)NK細胞におけるCD45の役割を中心に研究を進めた。以下、各研究課題において得られた研究成果を報告する。 (1)T細胞の発生・分化・機能におけるCD45の役割 胸腺において、未熟胸腺細胞(CD4^-CD8^-)から成熟胸腺細胞(CD4^+CD8^-またはCD4^-CD8^+)への成熟段階が阻害され、胸腺および末梢リンパ系組織における成熟T細胞数の著明な減少が認められた。トランスジェニックマウス由来のT細胞レセプター(TCR)のトランスジーンを導入したCD45-/-マウスが解析された結果、胸腺におけるポジティブ/ネガティブセレクションのいずれもが機能していないことが明らかとなった。 CD45欠損胸腺細胞および成熟T細胞では、TCRを介した刺激に対して応答できないことから、CD45はTCRを介したシグナル伝達に必須であることが証明された。さらに、CD45-/-マウス欠損マウスでは、抗原特異的免疫応答(細胞傷害活性:CTL活性、ヘルパーT細胞活性)がほとんど認められなかった。 CD45-/-マウスにおける皮内樹状細胞(DEC)の発生・分化を解析した結果、DECの主要な細胞亜集団であるVγ3(Toengawaらの命名法ではVγ5)陽性γδT細胞の発生・分化がほとんど阻害されていた。DECは胎仔胸腺由来であることから、CD45-/-マウスの胎仔胸腺細胞が解析され、Vγ3陽性γδT細胞の分化が未熟な分化階段で抑制されていることが明らかとなった。 (2) CD45-/-マウスの骨髄および脾臓におけるB細胞(sIgM^+)数が3週齢においてすでに増加しており、正常マウスの約2倍であった。この傾向は、20週齢においても認められた。また、CD45-/-マウスの骨髄および脾臓におけるB細胞は、sIgM(μ)^<high>IgD(δ)^<high>の表現型を有する細胞が大部分であり、正常マウスの場合の場合(μ^<low>δ^<high>が大部分)と異なることが明らかとなった。CD45^-B細胞では、リポ多糖(LPS)に対する増殖応答は正常であったが、抗μモノクローナル抗体に対する応答は消失していたが、抗μポリクローナル抗体に対する応答は低いながらも認められた。興味深いことには、CD45^-B細胞では正常B細胞と同様に、上記のいずれの刺激によっても、活性化マーカー(CD25,CD40 MHCクラスII)の発現上昇が認められた。したがって、増殖応答に必要な抗原レセプター(sIgM)を介したシグナルのレベルと活性化マーカーの発現上昇に必要なシグナルのレベルが異なる可能性が示唆される。また、CD45-/-マウスでは、T細胞非依存性抗原に対する抗体産生は正常であった。一方、T細胞依存性抗原であるオボアルブミン(OVA)で免疫した場合、OVA特異的抗体(IgG1,IgA,IgE)は認められなかった。しかしながら、CD4陽性T細胞(ヘルパーT細胞)をCD45-/-マウスに養子移入することによって、正常なOVA特異的抗体産生が誘導されるようになった。したがって、CD45の消失にもかかわらず、B細胞の抗体産生能には明らかな異常はないと考えられる。ただし、CD45-/-マウスでは、CD45の機能を補償する機構あるいは分子が働いている可能性があることは留意しておかなければならない。 (3) CD45-/-マウスでは、NK細胞数の著明な増加が認められ、それに伴い脾細胞におけるNK活性が明らかに上昇していた。しかしながら、NK細胞当たりのキラー活性は正常NK細胞と有意な差はなかった。また、このNK細胞の発生亢進は、NK細胞におけるCD45の消失が原因であることが証明された。CD45^-NK細胞を高濃度のIL-2存在下で培養することによって誘導されたLAK細胞においても、キラー活性は正常LAK細胞と有意な差はなかった。また、抗体依存性細胞傷害活性(ADCC活性)にも差は認められなかった。 以上のことから、T細胞、B細胞、NK細胞のそれぞれにおける発生・分化・機能おいて、CD45の要求性が異なることが明らかとなった。とくに、T細胞の発生・分化・機能おいて、CD45が不可欠の役割を果たしていることが明確となった。
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