研究課題
本研究では、これまでの個々の技法の長所・短所を整理し、その中からそれぞれの特長を活かし、かつ、それらを有機的に結合・統合することによって分散システムの開発に極めて有効な統合モデルを構築する点に特色があり、従来にない独創性がある。本研究が達成されれば、分散システムの特徴を活かした共通の基盤となる仕様のモデル化および解析の技法が、分散システムの構築の上で有効に適用できるようになる。これは適切な数学モデルに基づいたものであり、仕様記述者、設計者にとって曖昧さのない的確な技法となる。このモデル化・解析技法と機械支援系の提供とともに、分散システムの生産性が飛躍的に向上する。平成6年では、分散システムに適したオブジェクト指向を用いた仕様のモデル化と仕様の解析に有効な技法を開発した。平成5年度では、(1)分散システム仕様のオブジェクト指向に基づいたプロセス、データ、振る舞いの統合的なモデル化技法の開発、(2)仕様を表現するためのオブジェクト指向に基づいた形式言語の開発、(3)形式言語で表現された仕様の解析技法の開発、の研究を行った。(1)については、分散システムの大規模性、並行性およびシステムの進化に伴う仕様の変更性を考慮した従来にない新しい仕様記述のモデルを確立した。(2)については、(1)で確立したモデルに基づいて、柔軟性、厳密性、拡張性に優れた形式言語の構文と意味を設計した。(3)については、分散システムの設計に関連する要件、性質を整理し、それらを(2)の言語で書かれた仕様の上で解析する基本的な技法を確立した。また、(1)分散システム仕様のための形式言語の処理系の開発、(3)技法と処理系の評価、の研究を行った。(2)については、私が、5年度に開発した分散システム仕様のための形式言語の解釈を行う処理系を構築した。この処理系では、仕様の構文と意味の解釈だけでなく、仕様の性質を解析する支援を同時に行った。(2)については、(3)で構築した処理系を、その有効性に関して評価し、一層の改善を行った。これは、結果として、5年度に開発した分散システムの仕様のモデル化と解析の技法の改善に繋げるものである。