研究課題
国際学術研究
本研究は、日本とスウェーデンの知的障害者の「生活の質」を調査し、その実態と課題を明らかにすることを目的として、3年計画で行われた。研究初年度は、文献研究と並行して、本調査における調査方法・調査項目・評価法を確立するために、日瑞両国で予備調査を行った。予備調査は両国共年齢・障害程度等を条件を揃えて選ばれた男女数名の対象者に対して行われた。結婚または同棲中の男女1組もこの中に含まれていた。調査は面接法で行われ、カヤンディ式「生活の質」評価マニュアル(1994)を基にしたインタビュー・ガイドが用いられた。面接の中で対象者は、住宅・仕事・余暇活動・経済・教育・政策決定への参加・対人関係・将来の夢、自己実現、自由・自己決定、安心感、社会的関係など外的・内的側面各領域の多数の質問に答えながら、対象者の各領域における生活の満足度などが測定された。その結果、両国の社会文化差が「生活の質」評価尺度に大きな影響を与えていることが分かった。研究2年目は、さらに2回の予備調査が行われ、両国の社会文化差がどの位評価に影響を与えているのかが検討され、調査方法と評価尺度の修正を行った。その結果、本調査の対象者はコミュニケーション可能な知的障害者とし、男女同数とすることにした。また、居住形態別(入所施設・おやと同居・グループホーム・自活)による対象者の選定を行い、年齢の幅を限定(20〜55歳)した。面接者を男女各1とし、同性による面接を実施した。後日複数評価を行うため、面接時に録音を取ることにした。本調査の準備が整った日本側から本調査に入っていくことになった。研究最終年は、日瑞両国の本調査と結果の整理が行われた。本調査の有効対象者数は、日本側男40名女39名計79名・スウェーデン側男女各15名計30名であった。これまでの予備調査の結果から、両国の社会文化差は対象者の「生活の質」を構成する外的・内的側面に大きな影響を与えており、対象者の「生活の質」の評価結果を単純比較することが困難なことが判明している。そのため、外的側面については記述方式で両国の違いを記し、内的側面については「生活の質」評価マニュアルに基づく評価結果を算出した。出された結果は統計的に処理し、分析を行った。調査の結果は、両国の対象者像、対象者の「生活の質」の外的側面・内的側面が浮き彫りになるように、社会文化差、同文化内の地域差・性差、居住形態別による差違、非婚・既婚別による差違などに分けて分析が行われた。調査の結果、「入所施設」のような「本人の意思や主体性」が生かしにくい生活居住状態では、「生活の質」の評価が全体的に低いという実態が明らかになった。これは、本人の障害や意思とはまったく関係のない生活環境の劣悪さや、支援体制の不備が内的側面に影響を与えているためと思われた。また、身近な存在である「親と同居」している対象者の「生活の質」が、予想していたほど高くはなかった。社会的支援体制の不備とも関係していると思われた。「グループホーム」居住者の「生活の質」は「自活」している人たちほどは高くなく、個々の生活主体者として尊重してほしいという要求を示していた。「自活」している人たちは、それなりの自由度や自己実現への歩みを示していたが、孤独を感じている人たちもいた。一方、「結婚している」人たちには「2人で支え合う関係」が安心感をもたらし、「生活の質」を高めていく上で欠かせない要素となっていることが分かった。これらの結果から総じて言えることは、対象者本人に社会的・機能的制限によると思われる未成熟さが見られており、「生活の質」を高めるためには社会的な支援を必要としていた。スウェーデンの対象者の「生活の質」は日本の対象者のそれよりも総じて高く、特別な支援が、住居・仕事といった外的側面や自己実現・安心感といった内的側面、つまり、「生活の質」を高める上で大きな役割を果たしていることが判明した。
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