性決定と分化の分子機構

1996 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 06044235
• 研究機関: 岡崎国立共同研究機構
• 研究代表者: 長濱 嘉孝 岡崎国立共同研究機構, 基礎生物学研究所, 教授 (50113428)
• 研究分担者: GRAU E.Gordo ハワイ大学, 海洋研究所, 教授 ; DONALDSON Ed カナダ海洋研究所, 主任 ; CREWS David テキサス大学, 動物学教室, 教授 ; 中村 将 帝京大学, 法学部, 助教授 (10101734) ; 小林 亨 岡崎国立共同研究機構, 基礎生物学研究所, 助手 (30221972) ; 田中 実 岡崎国立共同研究機構, 基礎生物学研究所, 助手 (80202175) ; 吉国 通庸 岡崎国立共同研究機構, 基礎生物学研究所, 助教授 (50210662)
• キーワード: 性分化 / 性転換 / 性ホルモン / ティラピア / 魚類 / 芳香化酵素 / エストロゲン / アンドロゲン

研究概要

本研究の目的は、魚類と爬虫類を材料にして脊椎動物の性の決定と分化の分子機構を明らかにすることである。平成8年度は、生殖腺の性分化に果たすエストロゲンの役割について主にティラピアおよびハワイ産ベラを用いて解析した。
まず、ティラピアの雌にメチルテストステロンを処理するすることにより、雄(XX)を作出し、さらにこの雄と雌(XX)を交配することによりXXの全雌を得た。この全雌をメチルテストステロンで処理するとすべてが性転換して雄になる。このような個体の各種ステロイド代謝酵素遺伝子の発現を免疫組織化学で解析したところ、遺伝的には雌であるにもかかわらず性分化期にもステロイド代謝酵素の発現は認められなく、通常の雄(XY)と同じ様な発現パターンを示した。これらに結果より、本実験でみられた遺伝的雌の雄への性転換はメチルテストステロン処理の直接的効果というより、この処理により芳香化酵素酵素を含むエストロゲン合成系が抑制されたためであると結論される。また、エストロゲンの卵巣分化促進機構を明らかにする目的で、ティラピア卵巣のcDNAライブラリーから2種類のエストロゲン受容体cDNAをクローニングすることができた。一つのcDNAクローンはこれまで肝臓などで見つかっているcDNAとホモロギ-が高く、そのホモログ遺伝子と考えられる。しかし、もう一方のクローンはDNA結合領域やリガンド結合領域はこれまでのcDNAとよく似た構造を示すが、他の領域の塩基配列はそれらとは著しく異なる。今後、卵巣および精巣の性分化期におけるこれらエストロゲン受容体の役割について詳しく検討する予定である。
ハワイ産ベラの卵巣cDNAライブラリーより芳香化酵素cDNAをクローニングし、雌から雄への性転換時における本酵素のmRNA発現をノーザンブロット法及びin situハイブリダイジェーション法で解析した。その結果、性転換前の雌では芳香化酵素mRNAは顆粒膜細胞に局在するが、雄への性転換に伴い本酵素の発現は消失した。これらの結果は芳香化酵素が卵巣の維持に重要な役割を果たすことを示す。
さらに、アンドロゲンの生成に重要な役割を果たす2種のステロイド代謝酵素の遺伝子をウナギの精巣からクローニングすることに成功した。

研究成果

• [文献書誌] Nakamura,M.,Specker,J.L.and Nagahama,Y.: "Innervation of steroid-producing cells in the ovary of tilapia,Oreochromis niloticu" Zoological Science. 13. 603-608 (1996)
• [文献書誌] Kobayashi,T.,Chang,X.T.,Nakamura,M.,Fukada,S.and Nagahama,Y.: "Fish 3β-hydroxysteroid dehydrogenase/Δ^<5-4> isomerase : antibody production and their use for immunohistochemical detection of fish steroidogenic tissues" Zoological Science. 13. 909-914 (1996)
• [文献書誌] Kobayashi,D.,Tanaka,M.,Fukada,S.and Nagahama,Y.: "Steroidogenesis in the ovarian follicles of the medaka (Oryzias latipes) during vitellogenesis and oocyte maturation" Zoological Science. 13. 921-927 (1996)
• [文献書誌] Fukada,S.,Tanaka,M.,Matsuyama,M.,Kobayashi,D.and Nagahama,Y.: "Isolation,characterization,and expression of cDNAs encoding the medaka (Oryzias latipes) ovarian follicle cytochrome P-450 aromatase" Molecular Reproduction and Development. 45. 285-290 (1996)
• [文献書誌] Jiang,J.Q.,Kobayashi,T.,Ge,W.,Kobayashi,H.,Tanaka,M.,Okamoto,M.,Nonaka,Y.and Nagahama,Y.: "Fish testicular 11β-hydroxylase : cDNA cloning and mRNA expression during spermtogenesis" FEBS Letters. 397. 250-252 (1996)
• [文献書誌] Nagahama,Y.: "17α,20β-Dihydroxy-4-pregnen-3-one,a maturation-inducing hormone in fish oocytes : mechanisms of synthesis and action" Steroid. 62. 190-196 (1996)
• [文献書誌] Crews,D.: "Temperature-dependent sex determination : the interplay of steroid hormone and temperature" Zoological Science. 13. 1-13 (1996)
• [文献書誌] Chang,X.T.,Kobayashi,T.,Kajiura,H.,Nakamura,M.and Nagahama,Y.: "Isolation and characterization of the cDNA encoding the tilapia (Oreochromis niloticus) cytochrome P450 aromatase (P450arom) : changes in P450arom mRNA,protein and enzyme activity in ovarian follicles during oogenesis" Journal of Molecular Endocrinology. 18. 57-66 (1997)
• [文献書誌] Morrey,C.E.,Nakamura,M.,Kobayashi,T.,Grau,E.G.and Nagahama,Y.: "P450scc-like immunoreactivity throughout gonadal restructuring in the protogynous hermaphrodite Thalassoma duperrey" International Journal of Developmental Biology. (will be accepted after minor revision).
• [文献書誌] 岡田益よし・長濱嘉孝: "生殖細胞-形態から分子へ-" 共立出版, 223 (1996)