研究課題
国際学術研究
1.現生樹木及び炭化樹幹の年輪年代学的検討本研究では、1994年8月初旬に現地調査を行い、現生の老齢樹からコア標本と火砕流堆積物中に埋没している炭化樹幹の標本を多数採取し、奈良国立文化財研究所で年輪年代学的な分析、検討を行った。その結果、直接目的とする噴火年代の確定にはいたらなかったが、次のような諸事実が明らかとなった。1).現生の老齢樹からの標本採取は、長白カラマツ(Larix olgensis)とチョウセンマツ(Pinus karaiensis)とについて行った。長白山カラマツの樹齢は150年前後のものばかりで、チョウセンマツは最多のもので289年、最少のものは108年と、かなり差がある。これら2樹種の年輪年代学的な分析結果をみると、長白カラマツは適用可能があるが、チョウモセンマツは適用できないことが判った。つぎに、長白カラマツについてだけ1836年〜現在までの標準パターンを作成、これと約1100kmはなれた青森県下北半島のヒバ林の標準パターン(1769年〜1989年)とを照合したところ、高い相関関係が得られた。つまり、長白カラマツの年輪パターンと青森ヒバの年輪パターンとが連動していることが明らかとなったのである。この理由としては、長白山と下北半島とがほぼ同じ緯度に位置しているためと思われる。このことから、長白カラマツに限定すれば青森県下の遺跡出土木材で作成可能のヒバ材の標準パターンを使って、炭化樹幹の枯死年代を確立することが可能となる。現在、青森県においては、924年〜1325年までの標準パターンを作成している。これと、長白カラマツの炭化樹幹で作成した暦年未確定の年輪パターン(371年分)と照合してみたが成立しなかった。長白山の噴火は10世紀頃と推定されている。今後、青森県においてさきの暦年標準パターンを8世紀頃まで古くさかのぼることができれば、長白カラマツの炭化樹幹の年輪パターンに暦年を確定することができ、巨大噴火の実年代を明らかにすることができるものと思われる。2).巨大噴火の発生した季節については、樹皮をもつ炭化材の最外年輪の木材組織の観察から、噴火した年の秋から冬にかけての時期であったことが判明した。このことは、長白山から噴出した火山灰が真束に細長くのびた状況で青森から北海道にかけて分布していることから示唆されるさらに、偏西風卓越期であったという事実とよく符合する。3).長白カラマツの炭化樹幹のなかで表皮をもつ標本の年輪パターンを相互に照合したところ、いずれも最外年輪の位置で合致し、一度の噴火で枯死したことも判明した。2.巨大噴火の性状について長白山の大噴火は、白色のアルカリ流紋岩質軽石(Bユニット)を爆発的に噴出する活動で始まった。つづく噴火は、大規模火砕流の噴出であった。この火砕流堆積物(Cユニット)は褐色ないし黒色の火山灰、岩片、軽石、スコリアなどからなるが、上部にいくにつれ火山灰、スコリアに富むようになり、岩質も珪長質からやや苦鉄質に変化する。この火砕流堆積物は天地カルデラから放射状に広がって、少なくとも50kmの距離の平坦面を覆い、それから遠方にも河谷沿いに数十km流れ下り、段丘地形を形成している。長白山東麓では、この火砕流堆積物がのる。このように、火砕流堆積物と降下軽石との間には、時間差を示唆するうすい土壌や偏食間隙を示す斜交関係が見いだされた。3.巨大噴火後の森林遷移について火砕流堆積物のなかの炭化材の採集地の海抜高度から、噴火前の植生垂直分布帯は、現在の垂直分布よりやや高かったことが判明した。各地の採集した炭化材の樹種同定の結果からみて、噴火前の植生はチョウセンマツとミズナラなどの落葉広葉樹の混交林でおったことが判った。このことは、噴火後の森林植生とほぼ一致していることを示す。すなわち、噴火後の森林の回復状況は、ほぼ噴火前の森林植生に遷移したことになる。なお、今後の研究計画としては、再度長白山山麓での炭化樹幹の採取が是非とも必要と思われる。本年度持ち帰った炭化樹幹のサンプル数がまだまだ少ないからである。