研究分担者 |
GENTOCH J アメリカCDC, 下痢症ウィルス, 主任研究官
IAN H Holmes メルボルン大学, 微生物学, 教授
HAQUE M 国立研究所(バングラデシュ), 微生物学, 講師
SUPAWADEE J チェンマイ大学(タイ), 微生物学, 講師
MULLER WEG マインツ大学(ドイツ), 応用生化学, 教授
方 寅肇 国立公衆衛生院中国, 病毒研究所, 組長
BJORN GRINDE ノルウェー公衆衛生院, ウィルス部, 室長
WEN Leying 中国医学科学院, 病毒研究所, 技官
長谷川 斐子 国立予防衛生研究所, 感染疫学部, 主任研究官 (10132896)
西尾 治 国立公衆衛生院, 衛生微生物学部, 室長 (40270631)
IAN H Dept.of Microbiology, University of Melbourne, Professor
FANG Z-Y Institute of Virology, Chinese Institute of Public Health, China, Chief
GRINDE Bjorn Dept.of Virology, Institute of Public Health, Norway, Chief
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研究概要 |
下痢症ウィルスの診断法の開発及び疫学的研究をわが国及びアジアをベースとして行なった。まず診断法に関しては、ロタウィルス,アデノウイルスに続きアストロウイルスにおいてラテックス診断薬を開発した。また酵素抗体法に関しては単に診断のみならず血清型に関しても可能とした。酵素抗体法はノ-ウォーク関連ウイルスでも可能となった。更にPCR法により糞便中の微量抗原の検出もこれらのウイルスで可能とした。河川水,海水など自然界の中に存在する微量ウイルシについても抗体を被服した磁性体ビーズを用いる事にりウイルスを集め、PCR(RT-PCR)にて診断可能となった。平成7年末の一般外来における小型球形ウイルスの流行の時、食品(特にカキ)による食中毒の診断に有用であった。臨床的にも下痢症ウイルスによる気道症状、疼れん、発疹等全身性の場合を認めた。PCR産物を遺伝子解析することにより血清型内・亜群内の変異、血清型間及び亜群間のホモロジーについても知る事が可能となった。 ロタウイルスについて血清型内の変異をアジア(中国、パキスタン、タイ、マレーシア)地域と年による変異を遺伝子解析で調べた所、年代地域によって特定部位の変異が認められた。特に血清型3については、変異が非常に強いことと、血清学的には2つの血清型を有することがあり得ることがわかった。このことはヒトと動物間のロタウイルスの組み換え、血清型間の組み換えの存在の可能性を示唆した。日本を含めアジアでは現在血清型1が主流で、2,3,4型は非常に僅かであった。しかしながら先行研究によるアジアの成績では3型4型が主流のこともあり,またアフリカでは現在4型が主流な国があることから、世界レベルでの変化を見ることが必要であった。現在ロタウイルスのワクチンの開発が行われているが1〜4型すべてが含まれることが必要と考えられている。また、これらの流行疫学の研究はワクチンの更なる改良の為に必要な成績と考えられた。今後上記の血清型(VP7)とともにVP4も重要で、行なう予定である。 アデノウイルスの下痢症に関しては血清型40→41に移りつつある。ロタウイルスと比較すると季節集中性は認めにくかった。40,41型内のファイバー領域の遺伝子解析を行ったところ、型内の変化は少ないものの、日本とアジア各地のものでは特定の部位の配列が異なっていた。 アストロウイルスに関してさまざまな診断法の開発とともにカプシド領域の遺伝子解析を1〜7型の型間、型内で行った、カプシドの分子量が型によって異なること、N末端の方がC末端より型間での相同性が高かった。C末は型により欠損が認められた。血清型1は3と6との近縁性が2型4型と比較し、より近いことがわかった。わが国ではヨーロッパと同様1型が主流であった。5〜7型は非常に少なかった。家畜などにもアストロウイルスがあり、その遺伝子解析を行ったところ、ヒトとは相同性が低かった。アストロウイルスは小型球形ウイルスのなかでは培養が可能であり、その性格についてもロタウイルスと同様の研究が今後行われる予定である。 食中毒の原因としての小型球形ウイルスが注目されている。輸入・輸出食品及び、食品の流通の拡大により今後より大きな問題となろう。PCRによる診断法は一応確立されたものの、プライマーの設定によっては検出不可の場合がわかった。従って従来からの電子顕微鏡法、酵素抗体法なども併用する必要がある。一般外末の下痢症ウイルスの5〜10%にあること、年少児にもあること、遺伝子解析により、多株が存在することがわかり、どの様な感染様式があるかについては今後とも成績を増やす必要が感じられた。ノ-ウォーク関連ウイルスはいまだ細胞培養系が成立していない。動物実験も成立していない。現在これらについても検討中である。 アジアにおける小型球形ウイルスの頻度は、わが国と同様なことがわかった。また遺伝子の多様性もわが国と同様であった。 アストロウイルス、ノ-ウォーク関連ウイルスのワクチンの開発及び病態についてはまだ十分に行われていない。我々も動物モデルについて検討しているが、まだ可能なモデルの開発は成功していない。 以上まとめると、下痢症ウイルスの診断法はこの3年間の研究で著しく向上させることが可能となった。また小型球形ウイルスの分子疫学についての情報が得られた。アジアでは日本と同様の血清型の流行が認められるが、遺伝子解析によると特定の部位においてわが国のものとは違うことがわかった。また、ロタウイルス以外のウイルスも頻度は少いが乳幼児期から感染を受けることがわかった。流行様式については未だ不明な所も多かった。
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