研究課題
当初の出張予定が、予算成立の遅れもあって、実行がかなり遅れることになり、各メンバーの報告書執筆が若干遅れているものもあるが、各メンバーはそれぞれの分担計画を推進した。95年3月14〜15日には、西村を除く全員が東京に集まり、それぞれの研究成果について報告、検討を加えた。要点を概説すれば、次の通りである。日頃は温厚で、仏教の信仰の厚い“微笑の国"タイん人びとが“5月事件"と呼ばれる流血の大惨事を引き起こした。1992年5月17日から数日にわたって、軍の弾圧にも屈せず大規模なデモを敢行し多くの犠牲者を出したが、遂に軍人政権を倒して、文民政府が成立し、タイの政治体制は民主化へ大きく前進したようにみえる。このク-デタ-は、“経済的な不況の中で生活に苦しむ貧しい人びとの反権力闘争"というような一般的図式では説明しえないものであった。タイの経済は近年めざましい成長を続け、所得水準は向上し、新しく中間階層が生まれ、拡大ていた。この階層が既存の権益を固定しようとする、軍人を中心とする体制に反発を感じ“公正"を求めていた。それは5月事件でホワイトカラー、中小企業の経営者、学者や官吏など比較的豊かな階層の人びとが多数参加していたことによっても明らかであった。そして、この中間階層を誕生させたのは、正にタイの経済開発(開発独裁)の成果であり、とくにプラザ合意以降のめざましい経済成長であった。というのが、われわれの第1年度の研究の成果であった。次年度にはさらに、フィリピン、韓国およびインドネシアに対照を拡げて比較研究を行う予定である。
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