研究概要 |
TiAlの機械的性質、特に延性の向上に効果のある合金元素として、たとえばCr,Mn等が知られているが、これらの合金元素は必ずしも2相合金TiAlの主構成相であるγ相の延性を本質的に向上させているのではなく、環境脆性の軽減あるいは状態図の変化を通じて組織上の変化をもたらし、その結果として延性の向上に寄与しているとの考え方もある。そこで本研究では、γ相そのものの、延性をはじめとする力学的特性を決定していると考えられるAlの影響をまず明らかにすることを試みた。 2元系のTiAl合金の場合、工学的に重要な46〜48at%Alの合金には、主相であるγ相と第2相であるα_2相が含まれているが、このα_2相と平衡するγ相(図1の状態図の(α_2+γ)/γ相境界上にあるγ相)は十分な変形能を持っている。このことは、ラメラ組織(as-cast状態のTiAlに現れる典型的な層状組織)の単一粒からなる結晶(我々はこれをpolysynthetically twinned crystal(PST結晶)と呼んでいる)を、ラメラ組織界面と引張軸の角度をさまざまに変えて引張試験することによって実証された。(α_2+γ)/γ相境界の位置は、いまだ必ずしも確定した訳ではないが、常温近傍ではほぼ50at%Al付近にあると考えられている。したがってAlを〜50at%含むγ相は十分な変形能を有している。しかし、少なくともAl量が54at%に達するとγ相はがぜん脆くなる(Al濃度が54at%以下のγ相単相結晶に関する系統的な研究は未だ行われていないので50〜54at%Alの領域についてはよくわからない)。我々は56at%Alのγ相単結晶を育成し、降伏応力の結晶方位および温度依存性、変形モードとその温度依存性を求め、PST結晶の変形を通じて明らかになった〜50at%Alのγ相のそれとの比較を試みた。その結果、両者はとても同じγ相であるとは考えられない程異なっていることが明らかになった。まず、54at%Alおよび56at%Alの試料作成、すなわち、切断、研磨等々をPST結晶あるいはいわゆる2相のTiAl合金と同様に行えば、前者はとても試料にならない程脆い。 両者の場合ともに、変形モードとして、fcc金属・合金と同じ{111}面上のすべり(So)、同じ{111}面上のすべりであるが転位のバーガースベクトルが、2倍の規則格子転位によるすべり(Ss)、ならびに[112](111)タイプの双晶(T)が活動する。α_2相と平衡するγ相中のそれぞれの変形モードを活動させるために最低必要な応力の大小を比較すると、T<S_O<S_Sとなる。しかし、それぞれの差は小さいので、結晶方位、変形温度、歪みの量、合金元素の添加の有無等によっては、S_Sが優先的に活動する場合、複数の変形モードが混在する場合等々さまざまな変形状態が起こり得る[11]。ただし、S_Sが優先的に活動する場合でも、静的一軸引張変形の結果を見る限り、延性に大きな変化は認められず、PST結晶の場合、引張方位によっては20%以上の引張延性を示す。すなわち、2相TiAl合金中のγ相は、ほぼ同等に活動し得る3種の変形モードを持ち、かつ降伏応力も低い。等軸のγ相粒とラメラ粒の混在する組織(duplex組織)の多結晶は普通1〜数%の常温引張延性を示し(γ相そのものの引張延性はもっと大きいはずであるから、なぜ多結晶になればこの程度の引張延性になるのか、いまだ必ずしもよく理解されていないが)、少なくとも先に述べたγ相そのものの延性的傾向はduplex組織の多結晶に反映されている。 一方、単相のγ相(56at%Al)では、S_S<S_O<Tとなり、それぞれの変形モードを活動させるために要する最低応力も圧倒的に高い。特に驚くべきことは、双晶は700℃以上の高温でなければ活動せず、それ以下の温度では全く変形に寄与しない。このような激的な変化がAl濃度〜50at%〜54at%の間に起こるのである。したがってCr,V,Mn等の添加によってこれらの合金元素の効果を明らかにするため、Al濃度の厳密なコントロールが必要であることが明らかになった。
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