研究課題/領域番号 |
06044272
|
研究種目 |
国際学術研究
|
配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
井上 順一郎 名古屋大学, 工学部, 助教授 (60115532)
|
研究分担者 |
EDWARDS D.M. ロンドン大学, 数学科, 教授
遠山 貴巳 三重大学, 教育学部, 講師 (70237056)
榎本 美久 名古屋大学, 工学部, 講師 (70194008)
太田 幸則 名古屋大学, 工学部, 助手 (70168954)
前川 禎通 名古屋大学, 工学部, 教授 (60005973)
|
研究期間 (年度) |
1994
|
キーワード | 磁性人工格子 / 微粒子磁性薄膜 / マンガン酸化物 / 巨大磁気抵抗 / 交換結合 / スピンと電荷 |
研究概要 |
強磁性遷移金属と非磁性金属を原子レベルで周期的に積み重ねた磁性人口格子は、新機能材料として近年注目されている。特に、異常に大きな負の磁気抵抗(巨大磁気抵抗効果)はセンターへの応用として興味が持たれている。磁性人工格子は用いる強磁性金属と非磁性金属の種類及びそれぞれの原子層の厚さにより、その電気的磁気的性質が大きく変化する。そのため、人工格子構築のための理論的指針が強く望まれてきた。同時に、磁性人工格子の物性は、それを構成する遷移金属の電子構造及び層状物質特有の伝導現象が複雑に絡まっており、固体物理学の多くの基本的問題を含んでいる。本共同研究の目的は、遷移金属磁性体を用いた高機能磁性人工格子の電子構造、磁気的性質及び伝導現象を理論的に研究し、磁性人工格子の新しい物性物理学を確立するとともに高機能磁性人工格子構築のための指針を見いだし、新たな高機能磁性体の開発に役立てようとするものである。今年度においては、次の4点に関する研究が行われた。磁性人工格子における巨大磁気抵抗効果-特にその電流方向依存性、微粒子磁性薄膜における巨大磁気抵抗効果、磁性人工格子における交換結合、及び遷移金属酸化物における巨大磁気抵抗効果と電子相関、である。以下に各々について概略する。 1.磁性人工格子における巨大磁気抵抗効果は、電流が層に平行に流れるか、垂直に流れるかによってその大きさが異なっている。即ち磁気抵抗効果に異方性がある。一般に垂直電流に対する磁気抵抗効果のほうが平行電流に対するそれよりも大きい。一方磁気抵抗の起源として、磁性層と非磁性層との界面におけるスピンに依存する乱れが重要であることが我々の以前の研究により明らかにされている。そこで界面層に磁性原子と非磁性原子とがランダムに分布しているとして、垂直電流と平行電流に対する電気抵抗を久保公式を用いて計算し磁気抵抗を求め、磁気抵抗効果の異方性の起源を探った。その結果、電子の有効質量の異方性と、散乱体の二次元的分布が磁気抵抗効果の異方性の起源であることが明らかにされた。この結果は数値シミュレーションで得られた結果と基本的に一致している。 2.巨大磁気抵抗効果は磁性人工格子のみならず微粒子磁性薄膜においても見出されている。この系における磁気抵抗に対する磁性微粒子の形状の効果を数値シミュレーションを用いて調べた。その結果、電流方向に垂直な磁性微粒子の断面積が磁気抵抗効果を支配していることが明らかにされた。この結果は、単一バンドおよび二バンド模型を用いて行われ定性的に同一の結果が得られている。 3.磁性人工格子における磁性層間の交換結合への界面の不規則性の効果が調べられた。交換結合は、非磁性層の厚さと共に振動的に変化するが、界面の不規則性はこの振動的変化の強度と位相に影響を与えることが明らかにされた。 4.ペロブスカイト型マンガン酸化物においても非常に大きな負の磁気抵抗が見出されている。この系は電子相関の強い系であり、特にマンガン原子内のフント結合が巨大磁気抵抗にとって重要であることが指摘された。強相関電子系では、スピンと電荷の自由度とがどのように物性に絡んでくるかを明らかにすることが重要となる。この問題を原子内クーロン反発力の強い2次元系を対象として、厳密対角化法により調べた。 以上、電気抵抗、磁気抵抗に対する、不規則性、散乱体の形状、電子相関の効果が明らかにされた。磁気抵抗を大きくするためには、人工格子界面での不規則性のコントロール、微粒子磁性薄膜の微粒子の形状のコントロールが重要となる。今後、交換結合の振動的変化と巨大磁気抵抗効果との関連を理論的に調べ、磁性人工格子の物性の統一的描像を構築すること、遷移金属酸化物に対しては、人工的層状構造などを用いた電子相関のコントロールの可能性を理論的に考察していくことが重要課題として残されている。
|