研究課題
国際学術研究
アジア地域の経済発展に対してアメリカは貿易・投資の自由化を主要な手段とみており、日本は発展段階に応じた漸進的自由化が必要とみている。これは日米両国の経済構造・比較優位構造の違いとアジアに対するこれまでの関わり方の違いからきている。1.2年度に渡る研究の初年度は、1980年代以降のアジア・太平洋地域の経済の現状とその推移を把握する作業を行い、最終年度は、アジア・太平洋地域に対する日米の役割に対する政策提言をまとめる作業を行った。具体的作業としては、日本・アメリカ・東アジアを中心とする貿易・直接投資データを利用して、(1)アジア・太平洋地域の顕示比較優位指数と構造変化指数(主として阿部・Intra-Industry Trade of Japan and United States、阿部・日本の対ASEAN直接投資と産業内貿易の進展の論文)(2)同地域の、産業内貿易指数とその変化(主として井川・阿部・APEC and Intra-industry Trade : Japan's Roleの論文)(3)直接投資・多国籍企業行動と貿易・産業内貿易の関係(主として井川・多国籍企業と産業内貿易に関する一考察の論文)(4)日本の産業構造とその調整(主として井川・Global Activities of Firms and the International Divisions of Laborの論文)(5)APEC・ASEAN・NAFTA等の地域統合の内容(主として西島・ラテンアメリカ経済と地域統合、マクリアリ-・西島・Regional Trade Groupings and the National Interest of Japan and the United States、阿部・ASEANとSAARCの論文)を神戸大学サイドにおいて検討した。2.得られた主要な知見は、以下のことである。(1)SITC5桁の細分類された貿易データを利用して検討した結果、アジア・太平洋地域の産業内貿易が進展している。特に製造品のうち比較的資本・技術集約的と考えられる商品の途上国と先進国の間の貿易が拡大している。(2)同データから、日本の製造業では、技術集約的・知識集約的な業種の競争力が重要であり、その点を考慮した工程間分業も重要で、アジア地域において日本は資本財を輸出し製品を逆輸入するプロセスが … もっと見る 進んでいる。(3)日本のサービスの国際取り引きは急速に伸びているが、サービス産業の競争力は、これまでの保護・規制政策によって、アメリカに劣る。しかし、政策の変更によって競争力を付け、その分野での直接投資・海外活動も期待できアジアにおけるサービス業も分業・協力は将来性がある。(4)APECのなかで、日本はアジアとアメリカの仲介的な役割を果たさなければならない。そのためには、技術力の向上とそのスムーズな移転が必要である。アメリカが急速な自由化を求め、思惑が違うが、ASEAN・オーストラリアがそれに同調し、日本・韓国は農業保護問題のため、中国は国内市場の保護のため、条件付きの自由化の進展を望む展開にある。(5)アジア・太平洋地域のいろいろな形での経済統合は、この地域の経済発展からみて多くの面で有意義である。アメリカはNAFTAのアジアへの拡大、自由貿易地域の拡大を図り、ASEANは周辺の国を取り込みつつ、アジアにおける自らののアイデンティティ確保しようとしている。異なる統合のネットワークにいろいろな形でコミットすることは、日本経済にとってもプラスに作用する要因となる。3.日本とアメリカの役割・政策提言としては、以下のことが重要であることを示した。(1)アメリカは、市場経済の先導者、日本はアメリカとアジアの仲介者となること。(主として井川・阿部・Japan's Options for APECの論文)(2)それを果たすためには、アメリカおよび日本は技術力を上げそのアジア諸国への移転に努めること。(主として井川・阿部・APEC and Intra-Industry Trade:Japan's Roleの論文)(3)直接投資・産業内貿易によって、アジア諸国の産業調整を促進する。(主として阿部・ASEANとSAARCの論文)(4)アメリカはサービス分野のアジアへの移転に努める。(主としてマック・Political Economy of Protecting Unique Recreational resourcesの論文)(5)日本は、国内市場の開放と産業調整の促進に努める。(主として井川・Global Activities of Firms and the International Divisions of Laborの論文)4.海外派遣・招聘による、神戸大学・ハワイ大学でのセミナーだけでなく、科学研究費補助金以外による、客員研究員の派遣・招聘およびあらゆるコンファレンスの機会を捉えて共同研究を深めることができた。具体的には研究実績の報告と研究発表のところで述べていることの内容となるが、貿易・直接投資のデータを活用しながら、APECの意義・東アジアとの経済協力・日米の地域経済強力・ASEANと日米の経済関係・経済統合等に関して研究成果をまとめることができた。これらは、ハワイ大学側と協議して、1996年度内に書物の一部に組み込んだ形で出版する。 隠す
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