研究概要 |
(I)小児咽頭細菌叢の解析:咽頭細菌叢と下気道感染症との関連性を検討するため,タイ国メソッド地区幼稚園児同一集団32名を対象に10日の間隔をおいて2回鼻・咽頭培養を実施した.病原細菌分離率は鼻腔で各50%,64.3%,咽頭で37.5%,78.6%であり2度目の調査で分離率の上昇が認められた.この分離上昇は2度目における感冒様症状の増加および咽頭発赤所見と一致していた.分離病原体の種類は前後ともH.influenzaeが最も多く次いでS.pneumoniae,M.catarrhalisであった.これらの結果より4歳から6歳の幼稚園児では鼻咽頭に高率に呼吸器病原性のある細菌保有率が高く今回のように明確なヴィルス感染が疑われたような場合を契機にその保有率はさらに上昇し,ひいては下気道感染症(気管支炎・肺炎)を惹起する結果となると考えられた.すなはち下気道感染症の予防において鼻腔・咽頭病原体のコントロールの重要性が確認できたと言える. (II)成人市中肺炎の解析:平成7年2月にタイ国チェンマイ地区ナコーンピン病院にて市中肺炎患者を対象とし臨床的・細菌学的研究を実施し以下の結果を得た.1)入院患者(男41,女37名)診断内訳では36名(46.2%)が何らかの感染症診断で,主要なものは男性では肺炎33.3%クリプトコッカス髄膜炎42.9%,女性では肺炎66,7%髄膜炎13.3%であった.2)肺炎患者16名の平均入院日数は5.7日,起炎菌はH.influenzae3例,S.pneumoniae1例,両者混合感染1例,Mycobacterium2例であり細菌学的起炎菌決定率は43.8%で臨床的診断にてP.carinii,真菌1例であった.3)肺炎患者9名にHIV抗体検査が実施され5例(55.6%)が陽性であった.4)肺炎治療としては12例(75%)にPenicillin Gが第一選択薬として使用され有効率は50%であった.これらの成績から市中肺炎の問題点として高齢者における重症肺炎の化学療法の再構成の必要性と若年層におけるAIDS合併症としての肺炎の起炎病原体の正確かつ迅速な診断と適切な治療、および病原体の薬剤耐性状況の把握などが次年度の課題として上げられた。
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