研究概要 |
経営工学の問題には,人間による意思決定や評価・判断などに伴う不確実さを含めため,従来の最適化手法の直接的な適用が困難なものが多い.このような問題に対して,本研究では,可能性分布およびファジィ数による不確実さを表現するというアプローチを採用することにより,数理的な取り扱いを可能にした.不確実さを含む状況でのポートフォリオ選択問題やパターン識別問題,スケジューリング問題に対する数理的な解決の提案を目的に研究を進め,以下の成果が得られた. 1.ポートフォリオ問題において,各投資先から将来得られるであろう不確定な利得を可能性分布を用いて表現することにより,可能性ポートフォリオ選択問題を定式化し,その解析を行った.さらに,専門家により与えられた重みを導入することにより,重み付きの可能性ポートフォリオ問題に拡張した.また,このような定式化を行うために基礎として,数値データから可能性分布を同定する方法の提案を行った. 2.パターン識別問題に対して,各属性の特徴を表す言語値をファジィ数で表現することにより,学習用パターンから言語的な意味を持つファジィ識別ルールを自動生成する方法を提案した.さらに,生成された多数のファジィ識別ルールから少数の重要なルールのみを選択するために,遺伝的アルゴリズムに基づくルール選択手法を提案した.また,多数の属性を持つ多次元パターン識別問題に対してファジィ識別ルールを自動生成するために,遺伝的機械学習の代表的な手法であるクラシファイアシステムを,条件部に言語値を持つルールの取り扱いが可能なように拡張した. 3.言語地の取り扱いが可能なニューラルネットワークの構造を提案し,言語的な知識を用いたニューラルネットワークの学習アルゴリズムを導出した.また,パターン識別問題に対して学習を行ったニューラルネトワークから言語的な識別ルールを抽出する方法の提案を行った.本研究で提案したニューラルネットワークでは,結合強度や入力値,教師信号などがファジィ数で表現されている.このようなニューラルネットワークは,言語的な情報と数値的な情報を同時に取り扱うことが可能であるため,専門家による知識と数値データとの融合に基づく高度な知識情報処理システムの構築に用いることができる. 4.各ジョブの加工終了時間に対する意思決定者の満足度を表現するためにファジィ納期という概念を導入し,総満足度最大化問題および最小満足度最大化問題という2種類のファジィスケジューリング問題を定式化した.このようなファジィスケジューリング問題に対して,遺伝的アルゴリズムや局所探索法,遺伝的局所探索法の適用を行い,遺伝的局所探索法が最も効率的であることを明らかにした.また,総処理時間最小化問題や最大納期遅れ最小化問題,総滞留時間最小化問題,納期遅れジョブ数最小化問題などの多くのスケジューリング問題がファジィスケジューリング問題の枠組みで再定式化できることを明らかにし,複数の目的を持つ多目的スケジューリング問題をファジィ納期により統合する方法を提案した. 5.各ジョブの加工時間が不確定な場合に対して,加工時間をファジィ数により表現したファジィスケージューリング問題を定式化し,拡張原理を用いて各ジョブの加工終了時間を求める方法を提案した.加工時間ファジィ数の場合では,各ジョブの加工終了時間もファジィ数となり,総処理時間や納期遅れ,滞留時間などのスケジューリング評価基準の値もファジイ数として計算される.そこで,ファジイ数の大小関係に基づき,ファジィスケジューリング問題の非劣解集合を定義し,多目的遺伝的アルゴリズムにより非劣解集合に含まれるスケジュールを全て求める方法を提案した.
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