研究概要 |
<目的>北里大学においては健常成人を対象に1.種々の状況下における呼吸筋の活動を明らかにすると共に,2.Nasal Continuous Positive Airway Pressure (n-CPAP) あるいは Nasal Bilevel Positive Airway Pressure (n-BiPAP) などのPressure Supportに対する呼吸筋の反応を明らかにすることを目的とした.また,慢性呼吸不全の症例を対象に n-BiPAP を日中覚醒時および夜間睡眠時に使用し,その効果について検討することを目的とした.カルガリ-大学においては,Paul A. Eastonらによって開発された慢性動物実験モデルを用いて1.種々の状況下における呼吸筋の活動を明らかにすると共に,2.夜間睡眠中の呼吸筋の調節を明らかにすることを目的とした.以上,成犬の慢性動物実験システムによる基礎的研究をカルガリ-大学で実施し,健常成人を対象とした基礎的研究,ならびに,患者を対象とした臨床的研究を北里大学で実施することを本国際学術研究の目的とした. <方法>北里大学においては,健常成人20人を対象に高解像超音波画像診断装置を用いて,直視下に fine wire 電極を4つの腹筋(腹横筋,内腹斜筋,外腹斜筋,腹直筋)に個別に装入し,高炭酸ガス血症,低酸素血症に対する反応,および姿勢の変化に対する反応,さらにnasal-CPAP および nasal-BiPAP 下に各腹筋の電気的活動を記憶し,分析した.一部対象については,僧帽筋,補助吸気筋である胸鎖乳突筋,主要な吸気筋の一つである前,中斜角筋についても検討した.高炭酸ガス血症の誘発は Read の再呼吸法により,また,低酸素ガス血症の誘発には Progressive Hypoxia 法を用いた.さらに,低酸素血症および高炭酸ガス血症を伴う慢性呼吸不全患者に対して, n-BiPAP を日中覚醒時および夜間睡眠時に繰り返し使用し,動脈血液ガスに対する効果について検討した.カルガリ-大学においては,左肋骨部と左脚部の横隔膜,腹横筋,および傍胸骨内肋間筋に,筋電図用の一対の fine-wire 電極と,微少距離測定用のソノマイクロメータ用のトランスジューサ-を全身麻酔下に外科的手術により埋め込み装着した.電極とトランスジューサ-は同じ筋線維束上に装着した.これらの慢性犬を対象に,覚醒時および睡眠時の呼吸筋の電気的活動を記録・分析した.測定および記録は,術後各呼吸筋の活動が完全に回復してから実施した. <結果>北里大学における健常成人を対象とした研究では,1.臥位に比べて立位では腹筋の活動が高まること,2.高炭酸ガス血症に対しては腹筋が著しく反応すること,3.低酸素血症に対する腹筋の反応は弱いこと,および4.実用範囲内での nasal-CPAP に対して,腹直筋を除く全ての腹筋が反応することがわかった.一般的に,これらの負荷に対する反応は,負荷が強くなる程,反応が強くなった.また,内層にある筋肉程強い反応が認められた.すなわち,呼出筋としての作用は腹横筋が最も強く,ついで,内腹斜筋,外腹斜筋が続き,腹直筋は最も弱いことがわかった.一方,吸気筋に関する検討では,1.仰臥位の安静換気では,前斜角筋から吸気相に一致して電気的活動が出現し,立位で増大,2.最大吸気位までの吸気では,肺気量の増大に従い,前斜角筋に加えて胸鎖乳突筋からも電気的活動が出現したが,3.僧帽筋からは反応が認められなかった.さらに,低酸素血症および高炭酸ガス血症を伴う慢性呼吸不全患者に対して, n-BiPAP を日中覚醒時および夜間睡眠時に繰り返し使用したところ,PaO2の改善は有意ではなかったが,PaCO2の有意な低下およびpHの有意な上昇が認められた.カルガリ-大学における慢性犬による実験からは,睡眠の深度,および REMとnon-REM により横隔膜の肋骨部と脚部では,筋の収縮の程度が異なること,さらに傍胸骨肋間筋と横隔膜も差動的に働くことがわかった.慢性犬を用いて覚醒時および睡眠時における nasal-CPAP およびnasal-BiPAP の呼吸調節に対する影響については,まだ結果が出るに至ってない.
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