研究課題
国際学術研究
この研究では、2年間にわたり、日本とインドネシアにおける会計と開示をめぐる制度的枠組み及び会計・税務実務の調査を行うため、インドネシアと日本から共同研究者が相互に訪問して研究を進めた。その内容は以下のとおりである。まず、インドネシア研究者の日本訪問では、日本公認会計士協会、東京証券取引所、監査法人、税理士事務所などを訪問した。次にインドネシア訪問では、インドネシア大蔵省、ジャカルタ証券取引所、会計事務所で監査実務の実態と日本との相違を学んだ。さらに、日系企業において実務上の問題点を調査した。そこでえられた知識を要約すると、概ね次のようになる。最近、インドネシア経済はめざましい発展をとげている。インドネシア、1994年のAPEC(アジア太平洋経済協力会議)議長国を務めるとともに、経済の国際化・自由化にも積極的に取組んでいるように思われる。こうした側面は、インドネシアの外貨政策やインドネシア企業の海外進出にみられるとともに、インドネシアの会計基準にもあらわれている。インドネシアの外資政策は、1986年以来規制緩和に転じた。特に最近では1994年に大幅な規制緩和がなされている。その結果、外国企業投資認可額も急増した。他方、インドネシア企業の海外進出も活発化しようとしている。インドサット社がすでにニューヨーク証券取引所への上場を果しているのをはじめ、96年中にはダルマラ・インティウタマ社が東京証券取引所に上場する見通しであるという。企業活動の発展に伴い、インドネシア国内でも1994年から95年にかけて税法、会計基準、商法が相次いで改正された。特に会計基準については、インドネシアはいまや国際水準の基準をもつにいたっている。これは、日本において国内の会計基準が国際会計基準と相当の相違を残しており、国際的調和になお手間取っていることとは対照的である。このように、インドネシアは経済運営において国際化・自由化を進め、会計基準にも国際会計基準を取り入れるなど積極姿勢を示しているが、現実には圧倒的多数のインドネシア企業は成文化された会計基準を遵守できていない。インドネシアの文化的要因を考慮するならば、企業が会計基準を遵守できないというよりも、むしろ遵守しようとしないという方が正しいのかもしれない。今後、インドネシアが真に会計の国際化を実現しようとするのであれば、国内における会計的価値が諸外国に比してあまりにも偏っている現状を改め、会計基準と会計実務との不一致を改善する必要があると思われるが、これは必ずしも容易なことではない。会計教育の拡充、公認会計士の質的・量的向上、国際企業の意識変革など、さまざまな側面から地道な努力を続けることが肝要である。このことはまた、インドネシアに進出している日本企業にも課題を提示している。日本企業としては、インドネシアの文化に根ざした会計実務を自社に好都合な所与の条件としてこれに迎合するのではなく、むしろ、インドネシアの文化的背景をよく理解した上で、インドネシアの会計基準を遵守し、長期的にみて国際的に尊敬される会計行動をとることが期待されるところである。今後、この共同研究でえられた成果を順次共同で論文とし、発表していく予定である。