研究概要 |
本研究の目的は,以下の4つの現象を細胞質遺伝として統括し,分子細胞学的方法に加え超マイクロダイセクション装置を用いて,細胞と分子のレベルで解明することである。本年度の研究実績を以下に示す.1.無性生殖生物の細胞質遺伝の機構の解析:原始紅藻シアニゾシゾンのミトコンドリアゲノムの全塩基配列(32kbp)を決定し,ミトコンドリアの分裂装置が細胞核に支配されていることを示した。また,分裂装置のタンパク質はゴルジ体とマイクロボディよって分裂面表層に運搬され,ここで微細繊維の束である分裂リングを構築することを明らかにした.2.母性遺伝の分子機構の解析:単細胞緑藻クラミドモナスの接合直後に発現する遺伝子群(zys)の構造と機能を解析し,zys1A,1Bが互いに連鎖しており,これらの遺伝子産物が雄由来オルガネラDNAの選択的分解と密接に関係していることを明らかにした.また,zys3,4遺伝子に関しても遺伝子の構造を決め,抗体を作製した.3.両性遺伝の分子細胞機構:両性遺伝型植物ゼラニウムを用いて,細胞質遺伝には卵成熟過程におけるオルガネラDNAの選択的増幅が重要な役割を果たしていることを明らかにした.また,超マイクロダイセクション装置の改良を行ない,従来のマイクロダイセクションの分解能を10倍以上高めるとともに,光ピンセット装置でミトコンドリアを分離し,それらを一つずつ並べて文字を描くことにも成功した.4.オルガネラの雌雄性の分子細胞機構の解析:真正粘菌フィサルムのミトコンドリア融合と遺伝子組換えを誘導するプラスミドがDNA,RNAポリメラーゼ遺伝子を持つことを明らかにした.また,ミトコンドリア融合現象を1個のアメーバ細胞のレベルで追跡するPCR法を用いた実験系を開発し,ミトコンドリアの片親遺伝と両性遺伝が切り替わる現象を見いだした.これによって,両性遺伝の際にミトコンドリアゲノム同士がプラスミドの関与によって組換わることを明らかにした.
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