生物は自然突然変異率を一定の低い他に保つためのきわめて精緻な機構をもっているが、哺乳動物細胞におけるその機構の実体を明らかにするのが本研究の目的である。本年度はDNA合成の基質となるヌクレオチドの酸化によって起こる自然突然変異を抑える機構を中心に研究を進めた。 DNA合成の基質の1であるdGTPは細胞内で酸化されて8-oxo-dGTPとなるが、これはアデニンと対合することによってDNAにとりこまれるためにトランスバ-ジョン変異を引き起こす。8-oxo-dGTPを8-oxo-dGMPに特異的に分解する酵素をヒトの細胞から精製し、そのアミノ酸配列に基づいてcDNAをクローニングした。cDNAをプローブとしてヒトの遺伝子DNAを分離し解析したところ、MTHIと命名したヒトの遺伝子は約9kbの長さで少なくとも5ケのエキソンから構成していることが明らかになった。またその断片の一部をプローブとして解析した結果、この遺伝子は第7染色体の短腕の先端部7p22に位置することがわかった。ヒト集団におけるこの遺伝子の異常と発癌の関連などを明らかにするための解析系を確立し、いくつかの変異を見出した。またこの遺伝子の異常が自然突然変異や発癌にいかに影響するかを実験的に検討するために、この遺伝子を欠くマウスの作製を行った。マウスからcDNAおよび遺伝子を分離し、その-部を用いてターゲティングベクタ一を構築し、ES細胞の遺伝子を破壊するとともにそれからマウスを育成することに成功した。
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