ドイツ戦後改革を担う主体、すなわち連合軍占領当局とドイツ人について、これまで2年間の研究をふまえて、さらに史料収集と研究を進めた。ドイツ人の戦後出発点における精神構造とそれを規定した諸関係をさぐるために、今年は戦争末期の文書を中心に、さまざまの分野のドイツ人の精神構造を調べた。 ドイツ連邦文書館所蔵史料のなかで、ライヒ保安本部およびヒムラ-個人参謀部(幕僚部)、ナチ党財政部などの文書を取り寄せ、またライヒ経済省、ライヒ大蔵省などの文書類を集め、軍事状況、経済状況、治安状況、ドイツ人とドイツ占領下の民衆の意識状況の相互連関を探った。ドイツ人民衆の麻痺化、それとは対照的なドイツ占領下の民衆の活性化の諸相が明らかとなった。さらに、1994年9月頃からはじまる連合軍の占領に関して、特にアメリカ占領軍の占領機関USGCCの文書の収集と解析を行った。 本年度の研究のうち、スターリングラード敗北後の総督府の全体状況(1943年春)と「7月20事件」(1944年のヒトラー暗殺事件)前後のドイツ人民衆の意識の絶望的末期的麻痺症状については、すでに公表した。戦後ドイツが分割占領されざるをえなかった必然性を上記のような一次史料の調査は内在的に明らかにし、戦後史を規定するダイナミックな力関係の形成を実証するものであると考える。 これら成果をもとに戦後ドイツの難民問題の史料の調査と、難民の精神構造の分析に立ちいったが、この成果の公表は1995年度の『経済学季報』に掲載予定である。
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