遺跡土質中の残存脂質についての基礎資料を得るため、一例として京都府下の瓦谷古墳の周辺部の土(遺跡に直接関係のない部分)を採取し、ステアリン酸など二三の脂肪酸を一定量添加してから、その抽出量を測定した。抽出後の脂肪酸は紫外部吸収標識剤、或いは蛍光性標識剤を結合させ、高速液体クロマトグラフィーで分離後、定量した。その結果、吸着した脂肪酸は定量的に抽出が可能であることを確認した。また定量感度は紫外吸収性標識剤よりも蛍光性標識剤を結合したほうが高いので、蛍光性標識剤を比較検討する必要がある。最初研究に使用した標識剤9クロルメチルアントラセンは飽和脂肪酸には適しているが、不飽和脂肪酸にはADAMの方が適しているとの報告もあり、詳細な検討が今後必要である。また薄層クロマトグラフィーで分離後、各画分に対し、混合物のままで標識剤を結合させて全蛍光強度を、各資料で相互に比較すれば遺体の存在位置を迅速に推定することが可能であろう。次年度以降、この方法も検討したい。 遺跡探査の総括班が調査対象とした兵庫県七日市遺跡の土壙内各部分7個所から土を採取し、クロロホルム・メタノールで脂質を抽出した。薄膜クロマトグラフィーで成分を分離し、ステロール画分を取り出し、成分をエステル化した後ガスクロマトグラフィーで分離定量した。コプロスタノールとコレステロールの残存量はいずれも土壙の中央部分で最高となり、その存在比から遺体は女性であると推定できた。
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