匹、頭、個、回など、数とともに用いられる接辞を助数詞という。助数詞は数えられるもののカテゴリを反映する興味深い言語材料である。昨年度に引き続き、事例の分析と実験研究を通じて助数詞の獲得過程を調べた。 1.事例研究:2歳児の日常生活にみられる助数詞の使用 母親と女児双生児の食事場面の会話を月1〜3回録音した。2歳0ケ月〜2歳11ケ月の1年間の資料(21回)を書き起こしたところ、全10441発話中、助数詞が生じた発話は196で、21の助数詞とその変化形が見いだされた。分析結果は、以下のようにまとめられる。 (1)母子間でよく用いられるのは、「回」「個」「つ」である。 (2)2歳前半は「回」が優勢だが後半は「個」「つ」が優勢となる。 (3)助数詞は2歳前半では要求や主張の発話の中で、後半では対象の叙述の中で用いられる。 (4)助数詞の使用には母子間で同期性が見られる。助数詞も他の語彙と同様、養育者との言語インタラクションの中で獲得されるといえよう。 実験研究:助数詞付与のルールはどのように獲得されるか 内田他(1992)によれば、「頭」を習得した5歳児が「羽」を付与すべき駝鳥に「頭」を用いる現象があるという。大きさの次元で同一カテゴリに属す対象に、「頭」を般用したのであろう。本研究では(1)複数の事例を同一助数詞で呼ぶという経験があれば、基準を明示的に数えられなくても規則が抽出されるのか、(2)規則の抽出はいつ頃から可能になるのかを検討する。 「匹」と「頭」の区別がつかない4歳時、5歳時、各30名を等質な3群に分け、呼びわけ基準を明示する「明示群」、正しいラベルを模倣させる「ラベル群」、自発的に数えさせる「統制群」に割り当て、教授実験を行った。その結果、明示群、統制群の成績は4、5歳で差はないが、ラベル群の成績は、4歳よりも5歳で高く、しかも5歳では遅延でさらに成績が高くなった。助数詞を付与する規則は1回あるいは数回経験するだけで抽出されること、それは5歳から可能であることが示唆された。
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