暗黒星雲や分子雲などの密度の高い星間雲において観測されているさまざまな分子やイオンの存在量とその形成過程を理論的に解明するため、気相反応を中心とした反応ネットワークを構築し、分子の存在量の時間変化について、次の研究を行った。 1.含まれる粒子(分子、イオンなど)を275種類、反応数を2566種類にまで拡張した反応ネットワークを用いて、ガスの密度と温度が一定の「疑似時間依存モデル」について、さまざまな星間分子の存在量の時間変化を求め、その密度依存性と温度依存性を調べた。 2.極性分子とイオンの反応係数は、いままで使用されていたランジュバンの反応係数よりも値が大幅に大きくなる可能性が実験的に指摘されている。この新しい反応係数を採用した「高反応率モデル」を構築し、星間分子の存在量の時間変化を求め、従来の「低反応率モデル」と比較した。その結果、特定の暗黒星雲で観測されている炭素鎖分子などの存在量では、「高反応率モデル」が電波観測とよく一致しており、より適切な反応のモデルであることを明らかにした。 3.原始星のまわりにある原始惑星系円盤では、固体微粒子(ダスト)表面へのガス粒子の吸着によって、一酸化炭素(CO)が気相中から大きく減損している可能性が観測的に指摘されている。ダスト表面上におけるガス粒子の吸着、化学反応、脱着などの素過程を調べるとともに、これらの素過程を組み込んだ反応ネットワークを構築して原始惑星系円盤でのCOの存在量の時間変化を求めた。その結果、ダスト表面への吸着によって、COの存在量が観測とよく一致する程度に減損することを明らかにした。
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