本年度(H6年度)は、サブミリ波用偏光器の設計、プロトタイプ偏光器のための光学系製作、およびプロトタイプ偏光器を用いたサブミリ波偏光観測を行った。当初予定していた、サブミリ波アレイ検出器を用いた観測は、アレイカメラの製作が遅れたため、今年度に行うことができなかったが、プロトタイプ偏光器によって、限られた感度ではあるが、貴重なデータを得ることができた。本年度の観測では、従来の波長1.1ミリでの観測に加え、波長0.8ミリでの偏光観測を主に行い、やはり多くの若い星が偏光していることを確認した。さらに、昨年度までの観測結果とあわせることにより、若い星の星周環境の磁場構造について、他の観測手法では得難い貴重な情報を得た。 まず、若い星の進化を考える上で最も重要な、低質量原始星からTタウリ型星に至るまでの若い星のサンプルについて観測し、有意な結果を得た。それによると、若い星の周辺環境の空間構造と磁場構造との間には一定の関係がある。原始星では、観測された偏光は、この原始星を取り囲む大規模で扁平な構造(エンベロープ)の磁場構造を表し、その磁場の方向はエンベロープの長軸の方向に垂直で、かつ、周りの暗黒星雲の磁場方向に平行である。これに対して、古典的なTタウリ型星では大きな偏光は観測されなかった。これは、Tタウリ型星の周りの小さな円盤構造(ディスク)では、磁場が弱いか、あるいは、ダストが磁場の整列を受けにくい環境であるかを表している。 今後は、サブミリ波アレイ検出器を利用した観測を行い、観測の感度と効率を著しく改善し、上記の観測対象のサンプルを大幅に増すことによって、もっと統計的な議論を行いたい。さらに、アレイの2次元を生かして、磁場の空間構造をマッピング観測から直接描くことを目指したい。
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