人口現実感における臨場感は、生成された映像の精緻さなど、表現された情報の現実との静的な類似だけでなく、対象に対する操作やその際の対象の運動など、対話的で動的な要因に関しても議論されなければならない。このような動的な要因は能動的臨場感と呼ばれる。本研究では、とくに粘土による造形作業のような連続体モデルに対する操作に関して能動的臨場感の実現とその評価をおこなった。 対象の操作は、現実世界においては力が関与しており、仮想世界においても操作力の入力とこれを条件とした仮想物体の運動モデルの駆動により実現される。このような現実との相似性の実現のために、人口現実感システムを構成した。モデルの計算を含む仮想空間の生成にグラフィクスワークステーションを使用した。また、操作力の入力と操作者へのフィードバックの実現のために、フォースディスプレイを使用した。 連続体モデルに対する操作に先立ち、単純形状の剛体の表現と、運動方程式に基づくシミュレーションとが正しく行なわれることを確認するための予備的な実験をおこなった。この中では、剛な平面による運動の拘束の検証のために文字を描く作業が、また、運動シミュレーションの検証のために一次元のバネのモデルの伸縮作業がとり上げられ、いずれも精度良く機能することが確認された。 以上の予備実験を踏まえて、粘土をこねる作業をシミュレートする仮想環境を試作した。これは、曲面として表現される連続体を指により押す直接的操作により変形させることができるものである。変形は操作力に基づいてシミュレートされる。この環境を利用した操作性の評価の結果、触覚情報の存在により変形の認識がより効率的に行なわれ、操作性が向上することが示された。これは、試作された仮想環境により能動的臨場感が得られていることを示すものである。
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