研究概要 |
首都圏に在住する乳児とその主たる養育者(以下「母親」)16組を対象に、乳児が6-7ヶ月(以下「6ヶ月」)時と12-13ヶ月(以下「12ヶ月」)時の二度にわたって、縦断的に家庭場面での観察・実験を行った。実験の内容は、新奇で曖昧な刺激を乳児の眼前に呈示し、乳児が母親の顔を見る「参照行動」を示した後で、母親が、その刺激に対するpositiveもしくはnegativeな情緒的鑑定情報を与えるというもの(active social referencing)である。分析に用いたデータは、ビデオ撮影された3分間の実験場面における刺激等への接近・接触行動をいくつかの指標をもとに数値化したものと,約30分間の母子の自由遊び場面をClarkらの「Parent-Child Early Relational Assessment(PCERA)」を用いて数値化したもの,及び、母親に依頼した、6ヶ月時の「行動様式質問紙」,12ヶ月時の「関西学院Parenting Stress Index(KGPSI)」への回答である。 その結果、6ヶ月時・12ヶ月時ともに、刺激に対する乳児の接近・接触行動は、母親から得られた情緒情報がpositiveである場合に、negativeである場合よりも有意に大きくなることが示された。ただし、6ヶ月時の刺激に関する相互交渉においては、母親が教示内容から逸脱して物理的に乳児の姿勢や位置をコントロールする方略を多く用いており、教示通りに母親の身体表情を用いた情緒的な情報の表出とその感受のみによって刺激に対する乳児の行動がコントロールされている12ヶ月時とは相互交渉としての性質を異にしている。また、12ヶ月時の母子自由遊び場面の質や育児ストレスに関する質問紙への回答と、6ヶ月時点で母親が報告した乳児の行動特徴とに関連が見られ、気質概念における“difficult"を構成する行動特徴が12ヶ月の育児のストレスと、また、“easy"を構成する行動特徴が自由遊び場面での関係性の望ましさと、それぞれ関連していた。
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